Children of Men
2006年 アメリカ・イギリス 109分
監督:アルフォンス・キュアロン
2027年のイギリス。人類は18年前から子を作れなくなり、そのせいなのかなんなのか知らないけれど文明は世界各地で崩壊し、ただ一国どうにか秩序が保たれているイギリスに難民の群れが押し寄せている(らしい)。で、いかにもイギリス的に底意地の悪そうな兵隊たちが不法入国者を端からとっつかまえてキャンプに放り込んでいる頃、エネルギー省に勤めるくたびれた男セオドール・ファロンの前に別れた妻ジュリアンが反政府組織を率いて現われる。察するに元妻と寄りを戻したいという気持ちがどこかにあったのであろう、最初は拒絶するものの、結局セオドール・ファロンはこの反政府組織の行動に引きずり込まれ、成り行きによって責任を背負い込み、人類の未来を守るためにやむなく権力や暴力に立ち向かい、銃弾の雨のなかを突き進むことになっていく。
P・D・ジェイムズの原作は未読。なくてもいいようなストーリーとやたらと感傷的な音楽がいささか邪魔であったが、全体に美術は質が高いし映像面での満足度も高い。ウェザリングがほどこされた町や車や個人の持ち物などの細部にわたるプロップの作り込みには感心したし、冒頭、クライヴ・オーウェンがカフェでコーヒーを買って路上に出て、そこでいきなりテロが起こるという短いシーンも非常に迫力があるし、一歩郊外に出ると鉄道沿線にも森の奥にも暴徒が蝟集し、なんだかわからないけど襲ってくるという終末的な描写もなかなかに魅力的だし、クライマックス、難民キャンプ内で暴動が起こってクライヴ・オーウェンが走り始めてからの十分近いワンショットは市街戦のリアリティに挑戦しており画面の細部に見ごたえがある。
ということで大筋はともかく、こまかいところに長所の多い映画だと思う。クライヴ・オーウェンもジュリアン・ムーアもどちらかと言えば嫌いな種類の役者だが、全人類が鬱状態で景気が悪くて薄汚れている、という設定だと、この二人の不機嫌で不景気そうな様子もほとんど気にならない(というか、つまりそういうキャスティングであったと理解している)。マイケル・ケインがいい感じ。あと、登場するイヌやネコが人類の不幸ぶりと対照的に幸せそうなのが面白い。
Tetsuya Sato