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チュンの王国が崩壊するまでは単なる公然の秘密であったことが、チュンの王国が崩壊するのと同時に国家を震撼させる事件になった。魔法玉産業と政財界の癒着が暴露され、醜聞は政府の最高位とその身内にまで及んだが、政府は無難な地位にある数人の地方官吏を戒告処分にしただけで幕引きにかかった。しかし正義に目覚めた地方検事が独自の調査によって政府高官の告発に踏み切り、それが引き金となって政財界の重鎮の大量逮捕が始まると、有識者の一部から魔法玉が善良な市民の魂を堕落に導いているという声が上がり、この声に賛同する善良な市民が全国から集まってプラカードを掲げて行進を始めた。善良な市民からなるこの集団は行動の一環としてそろいの腕章をつけて道をふさぎ、通行人の持ち物を調べて魔法玉を没収した。魔法玉を売る店の前で集会を開き、悪臭がする白いペンキを店に浴びせた。対抗する市民集団は腕章をつけた市民に魔法玉で反撃を加え、衝突が全国各地で多発して、騒動に便乗した貧困層が店のショーウィンドウを叩き割って商品の略奪を繰り返した。情勢は不穏の一色に染まり、先行きへの懸念から株価が下がり、資本が海外へ逃げ出し、貨幣価値が急落した。二桁台で進行するインフレーションが家計を圧迫し、失業率が跳ね上がり、取り付け騒ぎを恐れた金融機関は窓口を閉ざして涙を流しながら死に絶えていった。千年にわたる平和と繁栄は崩壊の危機に瀕していた。予言が成就しつつある、とミュンが言った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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