(15)
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結婚式が終わって夜になった。クロエは初夜の寝床に横たわった。目を閉じて枕に顔を押しつけて、眠ったふりをしながらロボットの様子をうかがった。
寝床のかたわらでロボットが何かをやっていた。硬くて冷たい金属の殻をはずしていた。ロボットの腕の下から人間の腕が現われた。ロボットの脚の下から人間の脚が現われた。ロボットの円筒形の頭の下から美しい若者の顔が現われた。金属の殻をすっかりはずして美しい若者の姿になったロボットは窓から外へ出ていった。
クロエは寝床から滑り出て、爪先立ちで窓辺に走った。どこからか、美しい笛の音色が聞こえてきた。見ると若者が木の枝に腰を下ろして横笛を口にあてていた。クロエは笛の音色に聞き入った。一曲、そしてまた一曲。クロエは時を忘れて、美しい笛の音色に聞き入った。やがて朝が近づいてきた。若者は口から笛を離した。なめらか動作で木から下りて窓に向かって近づいてきた。クロエは寝床にもぐり込んで寝たふりをした。若者は窓をくぐって部屋に戻り、クロエが横たわるかたわらで金属の殻をまとっていった。人間の脚が見えなくなった。人間の腕も見えなくなった。ロボットの頭が若者の顔を覆い隠した。金属の殻をすっかりまとうと、そこには不格好なロボットがいた。
くくくくく、とロボットが笑った。
次の晩もクロエは寝床でロボットを待った。
前の晩と同じように、ロボットは金属の殻を脱ぎ捨てて、美しい若者の姿になると外へ出て、木の枝に腰を下ろして笛を吹いた。そして朝焼けを見る前に部屋に戻り、金属の殻をまとってロボットに戻った。
そしてその次の晩も、ロボットは金属の殻を脱ぎ捨てた。若者の姿になって笛を吹き、朝になる前にロボットに戻った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
寝床のかたわらでロボットが何かをやっていた。硬くて冷たい金属の殻をはずしていた。ロボットの腕の下から人間の腕が現われた。ロボットの脚の下から人間の脚が現われた。ロボットの円筒形の頭の下から美しい若者の顔が現われた。金属の殻をすっかりはずして美しい若者の姿になったロボットは窓から外へ出ていった。
クロエは寝床から滑り出て、爪先立ちで窓辺に走った。どこからか、美しい笛の音色が聞こえてきた。見ると若者が木の枝に腰を下ろして横笛を口にあてていた。クロエは笛の音色に聞き入った。一曲、そしてまた一曲。クロエは時を忘れて、美しい笛の音色に聞き入った。やがて朝が近づいてきた。若者は口から笛を離した。なめらか動作で木から下りて窓に向かって近づいてきた。クロエは寝床にもぐり込んで寝たふりをした。若者は窓をくぐって部屋に戻り、クロエが横たわるかたわらで金属の殻をまとっていった。人間の脚が見えなくなった。人間の腕も見えなくなった。ロボットの頭が若者の顔を覆い隠した。金属の殻をすっかりまとうと、そこには不格好なロボットがいた。
くくくくく、とロボットが笑った。
次の晩もクロエは寝床でロボットを待った。
前の晩と同じように、ロボットは金属の殻を脱ぎ捨てて、美しい若者の姿になると外へ出て、木の枝に腰を下ろして笛を吹いた。そして朝焼けを見る前に部屋に戻り、金属の殻をまとってロボットに戻った。
そしてその次の晩も、ロボットは金属の殻を脱ぎ捨てた。若者の姿になって笛を吹き、朝になる前にロボットに戻った。
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