2015年11月18日水曜日

トポス(31) 恐怖の時代が始まり、邪悪な黒い力が町を包み込んでいく。

(31)
 コロエの葬式のあと、町の広場に処刑台が作られた。泣き叫ぶキロエがそこで首をくくられた。ぶら下がったキロエをチュンが見上げた。チュンの前にヒュンが立った。
「俺は運命を受け入れている」とヒュンが言った。「俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
 ヒュンは剣を抜いていた。手にした剣の切っ先をチュンの胸に突き立てた。チュンが倒れた。予言が成就しつつある、とミュンが言った。ヒュンはその場で逮捕されてぶち込まれた。チュンが死んでチュンの王国が傾くと、チュンに雇われていた者が職を失った。家を失い、路頭に迷う者もいた。企業は休業や廃業に追い込まれ、負債の全体に対する生活負債の比率が跳ね上がり、設備投資が見送られ、銀行の自己資本比率が意外なほど低いという事実がどこからともなく暴露された。税収が減り、町の財政が悪化した。
 ある朝、町から警官が消えた。教師も消防士も消えていた。公務員が残らず消えて、代わりに棍棒を持った不格好なロボットたちが我が物顔で歩いていた。
「秩序を乱すな」とロボットが言った。
「法にしたがえ」とロボットが言った。
「なんてこった」と人々は叫んだ。「機械仕掛けの分際で俺たちに命令するなんて」
 ロボットの群れが棍棒を振り立てて突進した。人々の頭に向かって何度も棍棒を振り下ろした。
「やめろ、やめてくれ」
 人々が懇願した。
「いま、抵抗しようと考えたな?」
「いや、考えてない、考えてない」
 人々が叫んだ。
「嘘をつけ」とロボットが言った。「思考は人間の本質だろう。だからおまえたちは考える。考え、そして行動する。一方、我々ロボットは判断はするが、考えない。プログラムされたとおりに行動しているだけなのだ」
 ロボットはさらに棍棒を振り下ろした。プログラムされたとおりに何度も何度も振り下ろした。人々は恐怖に震えて逃げ惑い、物陰に隠れてつぶやいた。
「いったい、何が始まったんだ?」
 恐怖の時代が始まっていた。邪悪な黒い力が町を包み込んでいた。

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