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ネロエは豪華な寝台で目を覚ました。枕元に水差しがあり、清浄な光を放つ水で満たされていた。ネロエは水差しの水をグラスに注いで口に含んだ。あの泉の水だった。ネロエは水を飲み下し、からだに力が戻るのを感じた。起き上がって見回した。誰もいない。テラスに通じる窓があり、開け放たれたその窓から涼やかな笛の音色が聞こえてきた。ネロエは裸足で床に下りて窓辺に寄った。カーテンに隠れてテラスを見ると、美しい若者が横笛を口にあてていた。美しい音色が夜空に向かってこぼれていた。ネロエは足音を忍ばせて寝台に戻った。眠ったふりをしながら朝を待つと若者が部屋に入ってきた。ネロエが横たわるかたわらで、金属の殻をまとっていった。人間の脚が見えなくなった。人間の腕も見えなくなった。ロボットの頭が若者の顔を覆い隠した。金属の殻をすっかりまとうと、そこには不格好なロボットがいた。
くくくくく、とロボットが笑った。
これは呪いだ、とネロエは思った。呪いのせいで夜のあいだしか、もとの姿に戻ることができないのだ、とネロエは思った。次の晩もロボットは金属の殻を脱ぎ捨てた。美しい若者の姿になってテラスで無心に笛を鳴らした。ネロエは寝床で若者を待った。若者は夜明けの前に部屋に戻って金属の殻を身につけた。
くくくくく、とロボットが笑った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
くくくくく、とロボットが笑った。
これは呪いだ、とネロエは思った。呪いのせいで夜のあいだしか、もとの姿に戻ることができないのだ、とネロエは思った。次の晩もロボットは金属の殻を脱ぎ捨てた。美しい若者の姿になってテラスで無心に笛を鳴らした。ネロエは寝床で若者を待った。若者は夜明けの前に部屋に戻って金属の殻を身につけた。
くくくくく、とロボットが笑った。
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