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迷宮の内部は地獄だった。曲がりくねる石積みの廊下には半透明をしたゼリー状の怪物がひそんでいた。怪物は人間の前にいきなり姿を現わして、緑色やオレンジ色のからだで包み込んだ。襲われた人間は怪物のからだの中で時間をかけて消化された。分厚い膜にはばまれて悲鳴を聞くことはできなかったが、永遠に燃え続ける松明の光を頼りに溶けていくのを見ることはできた。石積みの廊下の壁には石や鉄の扉が並んでいた。扉を開けると、その奥にも怪物がいた。下半身が蛇になった女が猛烈な速さで這い出してきて平手打ちを食らわせた。ペンギンのようなものが出てきてお辞儀をして、いきなり猛烈な速さで回転して相手を部屋の隅まで跳ね飛ばした。どこから湧いて来るのか、くるくるとまわる危険なペンギンの群れでいっぱいになって、部屋から逃れようにも逃れられない。慎重に進んで扉を避けても、扉のほうが勝手に開いてブルカをつけた女が顔を出し、火炎瓶を投げつけてきた。火炎瓶から逃れても、いつの間にか小さな丸いものを踏みつけていた。一見したところは毛の生えた肉団子だが、踏まれると怒って背中から鋭い針を突き立てた。一匹が踏まれると同じようなものがわらわらと寄ってきて、いっせいに針を突き立てた。廊下の暗い場所には人魂のようなものが漂っていた。この人魂は攻撃しても無視しても怒って膨れ上がって真っ赤になって自爆した。爆発に巻き込まれると頭や手足が吹っ飛んだ。迷宮で生き残るためには化け物を片端から退治しながら進まなければならなかった。たいていの化け物は剣の一撃や銃弾の一発、適切に選ばれた魔法玉で退治できた。中には物理攻撃がまったく通用しないもの、物理攻撃しか通用しないものもいたが、うろたえなければ退治できた。回復系か復活系の魔法でしか退治できないアンデッド属性の化け物もいて、これは仕掛けを理解するまでに多大の時間と犠牲を必要とした。経験値を高めて相手を見極め、山ほど退治して化け物の死体をあとに残して進んでいくと恐ろしい化け物が追いかけてきた。直立歩行する山椒魚のような化け物が、転がる死体からみんなの怨みを拾い集めて追いかけてきた。カンテラを手にして現われて必殺の包丁攻撃を繰り出してきた。どのような勇者もこの包丁から逃れることはできなかった。突き立てられたら、もうそれだけで命運が尽きた。迷宮の内部は地獄だった。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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