(75)
|
ギュンとピュンを仲間に加えたとき、所長はすでに不満を感じていた。「あの二人には感謝の念が欠けていた。もしわたしが救いの手を差し伸べなければ、ピュンはあの谷底で朽ち果てて、屍肉喰らいどもの餌になっていたはずだ。そこへわたしが手を差し伸べて、ピュンを文明世界に連れ戻してやったのだ。しかしわたしはピュンから、礼らしき言葉を聞かされていない。ギュンもそうだ。もしわたしが救いの手を差し伸べなければ、ギュンはあの刑務所の不潔極まりない独房で朽ち果てて、無名墓地の底なし穴に投げ捨てられる運命だった。そこへわたしが手を差し伸べて、文明世界に連れ戻してやったのだ。しかしわたしはギュンからも、礼らしき言葉を聞かされていない。あの二人はわたしと目的を共有していたが、ただ共有していただけで、実は仲間などではなかったのだ。わたしはすぐに気がついた。感謝の念が欠けていたことがその証拠だ。ただ感謝しないばかりではない。このわたしをまるで、怪物を見るような目つきで盗み見た。あの目つきはよく知っている。分不相応な不満を抱えて、暴動を起こす機会を虎視眈々と狙っている姑息で恥知らずな囚人の目だ。感謝を知らない囚人の目だ。わたしは対処しなければならなかった。わたしにはすみやかに対処する責任があった」
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.