2016年1月15日金曜日

トポス(77) 所長の前に神秘の力が光をまとって現われる。

(77)
 神秘の力が光をまとって所長の前に現われた。
「わたしは神秘の力だ」と神秘の力が所長に言った。「おまえの呼びかけにこたえて、ここにこうしてやって来た。聞くがいい。邪悪な黒い力が勢いを増している。千年にわたる平和と繁栄は絶たれ、地上は暗黒の力で満たされる。だが安心するがいい。邪悪な黒い力は一人の英雄の手によって倒される。その英雄はヒュンと名乗り、羽飾りのついた帽子をかぶり、腰に名もない剣を吊るしている。おまえの使命は一つしかない。ヒュンを助け、邪悪な黒い力の暗黒の野望を打ち砕くのだ」
「神秘の力よ」と所長が叫んだ。「この俺に命令しようというのか? だが命令するのは俺のほうだ。おまえは俺の下僕となり、俺の命令にしたがってギュンとピュンを滅ぼすのだ」
「わたしは神秘の力だ。万物に内在する悟性の結晶だ。内面のないおまえの下僕ではない。おまえがわたしの下僕なのだ。わたしの敬意を得たければ内面を鍛えろ。判断以前に感性がない。地方官僚的な条件反射とロボットのプログラムで動く人間に、わたしが敬意を払うことはないだろう。俗物と呼ばれたことは一度もないか? 小役人と罵られたことは一度もないか?」
「役立たずめ」と所長が叫んだ。「消え失せろ。どうやら呼び出す相手を間違えた。この俺には、復讐の女神がふさわしい」

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