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所長の仲間に加わったとき、ピュンはすでに不満を感じていた。「なんだかとんでもなく遠くに来たって思うことがたまにある。魔法玉工場で朝から晩まで、小鬼の頭を割っていた頃が無性に懐かしくなることがある。毎朝いやでも聞くことになるタイムカードの打刻音や、工場の食堂のまずい飯や、出納係のばあさんの不機嫌な顔が無性に懐かしくなることがある。でも、俺にはよくわかってた。昔には、もう決して戻れないってわかってた。前に進むしかなかったんだ。できることをするしかなかったんだ。ヒュンは俺の獲物だった。ヒュンをぶっ殺すために、とにかく俺はがんばったんだ。がんばってがんばってがんばったんだ。だから、誰かに渡すわけにはいかなかった。俺が自分の手で、ヒュンをぶっ殺さなけりゃならなかった。そうするのが俺の責任だって思ってた。そうなんだ。俺の責任だったんだ。俺は、俺の責任を果たすために、まずあの化け物を、つまり所長をなんとかしなけりゃならないと思ってた。だから罠を仕掛けておいたんだ。落とし穴なんかじゃない。スイッチと斧を使った罠だった。所長が前に進んだら、斧が天井から降ってきて所長を真っ二つにするようになっていた。所長がヒュンに近寄ったとき、俺は迷わずスイッチを押した。斧が降ってくる音をはっきりと聞いたよ」
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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