第六話 | |
謎の地底基地 |
テラシティの地下五百メートル、いかなる攻撃をも跳ね返す巨大な岩盤の下に金星人ヴァイパーの秘密基地が隠されていた。邪悪さでは右に出る者がなく、狡猾さではあのメテオブレインにも並ぶとされるヴァイパーは、ある日たまたま手にした統計資料からテラシティの市民が自分の足元にひどく不注意なことに気がついて、テラシティの足元に秘密基地を作れば決して見つかることはないと考え、そう考えた途端にいかにも金星人らしい軽薄さで実行に移ってカンテラの明かり一つを頼りに地下にもぐり、巨大ミミズや巨大モグラ、地下生活のせいですっかり色素を失ったガニメデの昆虫人間などと戦いながら粘り強く探索を続けてついに格好の場所を見つけ出し、そこに秘密基地を作ったのであった。そして事実から言えばテラシティの市民は自分の足元にひどく不注意であったので、金星人ヴァイパーのこの恐るべき目論見はこれ以上はないというくらいに見過ごされ、一方、図々しくもテラシティの真下に出現した秘密基地は図に乗ったヴァイパーによって何度となく拡張工事をほどこされ、最初はせいぜい掘立小屋のようであったものが、いまではいかなる秘密基地と比べてもまったく遜色がないほど巨大なものとなっていた。あちらには戦闘員が戦闘機に乗って空中戦の訓練をする空洞があった。こちらには戦闘員が潜水艇に乗って水中戦の訓練をするプールがあった。そこかしこに武器をそろえた武器庫があり、最新鋭の多砲塔戦車を並べた格納庫があり、一つだけとは言え潜水艦を浮かべたドックがあり、ミサイルのサイロには破壊力をきわめたミサイルが並び、巨大なドームの下では大型の宇宙船が舳先を連ね、頑丈な檻のなかでは飼いならされた巨大ミミズや巨大モグラ、すっかり色素を失ったガニメデの昆虫人間などがテラシティの市民を食い散らそうと出撃の合図を待ち受けていた。福利厚生面にもぬかりはない。戦闘員は快適な宿舎で暮らし、小さいながらも洗練された店が並ぶショッピングモールで買い物を楽しみ、厳選されたレストランで味わい深い料理に舌つづみを打ち、最高の設備を備えたスポーツジムで健康的な汗を流した。病院では有能な医師が無料で患者の治療にあたり、学校では有能な教師が無料で戦闘員の子供たちを教育した。洞窟が自然のままの姿で残された幻想的な一角には瀟洒なたたずまいのチャペルがあって、そこでは福々しい司祭が婚姻の契りを結んだ男女に祝福を与え、生まれたばかりの子供に清らかな水で洗礼を授けた。もちろんチャペルの裏手には墓地があって、ほの暗い過去を抱えた墓守がいかめしい面持ちでいくつかの墓標を守っていた。このように単に戦力だけを見てもテラシティの一つや二つは瞬時に破壊できるたくわえがあり、ないものは一つとしてないと言ってもよいほどで、まったく驚嘆すべき秘密基地ではあったが、実はただ一つだけ欠点があって、地上に達するたった一つの出入り口が直径五十センチほどしかなかったために、どうにか人間は通り抜けることができたものの、戦車や戦闘機などは言うまでもなく子供用の自転車すらも地上に送ることができなかった。
わはははははとヴァイパーが笑った。「というわけで、その問題さえなんとかすれば、テラシティは我々のものだ」
ここは秘密基地の心臓部、金星人ヴァイパーの司令室だ。円形をした広大な部屋の壁に沿って無数のランプをちかちかと点滅させるコンピューターのような物、あわただしくリールを回転させる磁気テープ装置、何に使うのかわからないメーターのたぐい、放電球、丸いブラウン管に際限もなく波を打たせるオシログラフなどがずらりと並び、部屋の中心には腎臓型の大きな会議テーブルが置かれている。ヴァイパーはそのテーブルの前に立って腰に手をあて、向かい側に肩を並べて座る悪党ども、火星人ゴラッグ、金星人ヴァゾー、地球人セプテム、そして遠くアルファケンタウリから地球征服のためにやって来たエレメントXを見下ろしていた。
「さあ、悪党どもよ」とヴァイパーが続けた。「この話をどう思う?」
「間抜けな話だ」セプテムが言った。「しかし協力してもいいだろう」
「それは心強いな」
「だが、その前におまえに訊いておきたいことがある」
「訊けよ。きっと、気になることがあるだろうからな」
「おれは処刑されて、死んだはずだ」
「そのとおり。そしてそれはおまえだけではない。ゴラッグもヴァゾーも処刑されて死んでいる」
「やっぱりそうだったのか」ヴァゾーがうなずいた。
「おれも妙だと思っていた」ゴラッグもうなずいた。
「そのおれたちが」セプテムが続けた。「処刑されて死んだにもかかわらず、なぜここに座っておまえと話をしているのだ?」
わはははははとヴァイパーが笑った。「やはり気がついたか。いつかは気がつくだろうと思っていたが、そのとおりだ。おまえたちは処刑されて死んだにもかかわらず、なぜかここに座っておれと話をしているというわけだ」
「なぜだ?」
わはははははとヴァイパーが笑った。「気になるだろうな。気になってしかたがないだろうな。いいだろう、教えてやろう。実はこの秘密基地には、かなりいかがわしいことでも平然とやってのける最先端の生体科学研究所があってな、そこへおまえたちの死体を運び込んで細胞賦活処置をくわえたのだ」
「つまり、おれたちは生き返ったということか?」
「そうは言っていない」
「そうは言っていない? ではどういうことだ?」
「簡単なことだ。おまえたちは、まだ死んでいる」
「なんだと」金星人のヴァゾーが叫んだ。
「説明しろ」火星人のゴラッグも叫んだ。
わはははははとヴァイパーが笑った。「ショックを受けるといけないからな、控え目な言い方をさせてもらうが、つまりゾの字で始まるものになってもらった」
「ゾの字?」ヴァゾーが立ち上がった。「ゾの字とはなんだ?」
「説明しろ」ゴラッグも立ち上がった。「ゾの字とはなんだ?」
「まさかと思うが」セプテムも立ち上がった。「つまりそれは」
「そのとおり」ヴァイパーがうなずいた。
「それはゾの字で始まるもののことだな」
「だからそれはなんだと訊いているのだ」ヴァゾーが叫んだ。
「説明しろ。すみやかな説明を要求する」ゴラッグが叫んだ。
「ゾンビだよ」ヴァイパーが言った。「だが安心しろ。防腐措置は完璧だから、これ以上腐敗が進行することはないそうだ。それからもう一つ、面白いことを教えてやろう」ヴァイパーは小さな黒い箱を取り出して高々と掲げた。「これは、リモートコントロール装置だ」
「まさか」悪党どもが声を合わせた。「そのリモートコントロール装置を使って、おれたちを自在にあやつるつもりだな」
「そうだ」とヴァイパーが叫んだ。「このリモートコントロール装置を使って、おまえたちを自在にあやつるつもりなのだ」
「そしてヴァイパーは」そう言いながらエレメントXが立ち上がり、小さな黒い箱を取り出して高々と掲げた。「このリモートコントロール装置を使って、おれが自在にあやつっているのだ」
わはははははとヴァイパーが笑った。
「座ってもらおう」
エレメントXが手を振ってうながし、悪党どもが腰を下ろした。
「おれはエレメントX、地球を征服するために、わざわざアルファケンタウリからやって来た。地球を征服するためにはどうすればいいのか、おれは時間をかけて考えたが、ある日たまたま手にした統計資料からまずテラシティを占領するのが最良の策だと気がついた。だがテラシティを占領するためには、あのアダム・ラーを倒さねばならない。そこでアダム・ラーを倒すためにはどうすればいいか、おれは時間をかけて考えた。そしてある日たまたま目にした資料から、アダム・ラーを倒す方法を発見したのだ。では、その資料をおまえたちにも見てもらおう」そう言うとエレメントXはテーブルの隅のスイッチを入れた。するとテーブルの中央に球形のスクリーンが浮き上がった。「これはアダム・ラーの戦い方を記録した映像だ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「これもそうだ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「これも」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「それからこれもだ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして彼女の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「彼女の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、球形のスクリーンが宙に消えた。
「こいつは驚いた」ゴラッグが言った。
「毎回、同じとは」ヴァゾーが言った。
「信じられん」セプテムが首を振った。
わはははははとヴァイパーが笑った。
「つまりだ」エレメントXが指を立てた。「アダム・ラーは必ずミニチュア光線を持ち出してスパークスを縮小する、ということだ。だとすれば、おれたちはアダム・ラーにそれをさせないようにすればいい、というわけだ」
「ミニチュア光線を壊しておけばいい」
「いや、スパークスを殺せばいいんだ」
「いや、両方だ。破壊して、殺すんだ」
わはははははとヴァイパーが笑った。
「もっといい方法がある」とエレメントXが言った。「スパークスを誘拐するのだ。ミニチュア光線を破壊すれば、連中はきっと予備を持ち出す。スパークスを殺せば、アダム・ラーのことだ、きっとタップスか、替わりの誰かを縮小するに違いない。しかしスパークスが生きている限り、やつにはスパークスしか縮小することができないのだ。なにしろヒーローというのは間抜けで融通が利かないものだからな。だからスパークスを誘拐すれば、そしてスパークスがまだ生きていることをアダム・ラーに教えてやれば、やつは縮小作戦が使えなくなる。そのときこそが、おれたちのチャンスだ」
「それはすごい」とゴラッグが言った。
「天才の発想だ」とヴァゾーが言った。
「信じられん」セプテムが首を振った。
わはははははとヴァイパーが笑った。
「これでいよいよ」エレメントXがにんまりと笑った。「アダム・ラーもおだぶつというわけだ」
ゴラッグがうなずいた。「あんたはすごい」
ヴァゾーもうなずいた。「メテオブレインより頭が切れる」
「メテオブレイン? 知らないな。それはいったい何者だ?」
エレメントXが訊ねるとセプテムが答えた。
「小惑星帯を根城にしている悪党で、頭が切れるんで有名だ」
「本名はガストン・ラリュー」とゴラッグが言った。
「出身は地球だ」とヴァゾーが言った。
「ただし、おれが最後に会ったときには」とセプテムが言った。「たしか、バスティアン・ギーと名乗っていた」
「バスティアン・ギー?」エレメントXが胸をつかんでよろめいた。「そんなばかな。やつはおれがこの手で三年前に…」
このとき司令室のドアが音もなく開いた。エレメントXがかすむ目を向ける。そこに立っていたのは赤いトレンチコートを着たブロンドの女だ。
「モニーク」エレメントXが震える声を絞り出した。
モニークと呼ばれた女がコートのポケットからピストルを出し、腰だめに構えて二発撃った。薬莢が飛び、司令室に銃声が轟き、エレメントXが床にくずおれる。ドアが静かに閉じて女の姿を覆い隠した。
「エレメントXっ」叫びを放って悪党どもが駆け寄り、血まみれのエレメントXを抱き起した。
「ちくしょう」エレメントXがあえいだ。「おれにはわかっていた。いずれはこうなるとわかっていた。あの泥沼からは、一人として逃げ出すことはできないんだ」
エレメントXの口から血があふれた。
「誰か、誰か」悪党どもが声を合わせた。「誰か、こいつを助けてやってくれ。この地獄からこいつを助け出してやってくれ」
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
わはははははとヴァイパーが笑った。「というわけで、その問題さえなんとかすれば、テラシティは我々のものだ」
ここは秘密基地の心臓部、金星人ヴァイパーの司令室だ。円形をした広大な部屋の壁に沿って無数のランプをちかちかと点滅させるコンピューターのような物、あわただしくリールを回転させる磁気テープ装置、何に使うのかわからないメーターのたぐい、放電球、丸いブラウン管に際限もなく波を打たせるオシログラフなどがずらりと並び、部屋の中心には腎臓型の大きな会議テーブルが置かれている。ヴァイパーはそのテーブルの前に立って腰に手をあて、向かい側に肩を並べて座る悪党ども、火星人ゴラッグ、金星人ヴァゾー、地球人セプテム、そして遠くアルファケンタウリから地球征服のためにやって来たエレメントXを見下ろしていた。
「さあ、悪党どもよ」とヴァイパーが続けた。「この話をどう思う?」
「間抜けな話だ」セプテムが言った。「しかし協力してもいいだろう」
「それは心強いな」
「だが、その前におまえに訊いておきたいことがある」
「訊けよ。きっと、気になることがあるだろうからな」
「おれは処刑されて、死んだはずだ」
「そのとおり。そしてそれはおまえだけではない。ゴラッグもヴァゾーも処刑されて死んでいる」
「やっぱりそうだったのか」ヴァゾーがうなずいた。
「おれも妙だと思っていた」ゴラッグもうなずいた。
「そのおれたちが」セプテムが続けた。「処刑されて死んだにもかかわらず、なぜここに座っておまえと話をしているのだ?」
わはははははとヴァイパーが笑った。「やはり気がついたか。いつかは気がつくだろうと思っていたが、そのとおりだ。おまえたちは処刑されて死んだにもかかわらず、なぜかここに座っておれと話をしているというわけだ」
「なぜだ?」
わはははははとヴァイパーが笑った。「気になるだろうな。気になってしかたがないだろうな。いいだろう、教えてやろう。実はこの秘密基地には、かなりいかがわしいことでも平然とやってのける最先端の生体科学研究所があってな、そこへおまえたちの死体を運び込んで細胞賦活処置をくわえたのだ」
「つまり、おれたちは生き返ったということか?」
「そうは言っていない」
「そうは言っていない? ではどういうことだ?」
「簡単なことだ。おまえたちは、まだ死んでいる」
「なんだと」金星人のヴァゾーが叫んだ。
「説明しろ」火星人のゴラッグも叫んだ。
わはははははとヴァイパーが笑った。「ショックを受けるといけないからな、控え目な言い方をさせてもらうが、つまりゾの字で始まるものになってもらった」
「ゾの字?」ヴァゾーが立ち上がった。「ゾの字とはなんだ?」
「説明しろ」ゴラッグも立ち上がった。「ゾの字とはなんだ?」
「まさかと思うが」セプテムも立ち上がった。「つまりそれは」
「そのとおり」ヴァイパーがうなずいた。
「それはゾの字で始まるもののことだな」
「だからそれはなんだと訊いているのだ」ヴァゾーが叫んだ。
「説明しろ。すみやかな説明を要求する」ゴラッグが叫んだ。
「ゾンビだよ」ヴァイパーが言った。「だが安心しろ。防腐措置は完璧だから、これ以上腐敗が進行することはないそうだ。それからもう一つ、面白いことを教えてやろう」ヴァイパーは小さな黒い箱を取り出して高々と掲げた。「これは、リモートコントロール装置だ」
「まさか」悪党どもが声を合わせた。「そのリモートコントロール装置を使って、おれたちを自在にあやつるつもりだな」
「そうだ」とヴァイパーが叫んだ。「このリモートコントロール装置を使って、おまえたちを自在にあやつるつもりなのだ」
「そしてヴァイパーは」そう言いながらエレメントXが立ち上がり、小さな黒い箱を取り出して高々と掲げた。「このリモートコントロール装置を使って、おれが自在にあやつっているのだ」
わはははははとヴァイパーが笑った。
「座ってもらおう」
エレメントXが手を振ってうながし、悪党どもが腰を下ろした。
「おれはエレメントX、地球を征服するために、わざわざアルファケンタウリからやって来た。地球を征服するためにはどうすればいいのか、おれは時間をかけて考えたが、ある日たまたま手にした統計資料からまずテラシティを占領するのが最良の策だと気がついた。だがテラシティを占領するためには、あのアダム・ラーを倒さねばならない。そこでアダム・ラーを倒すためにはどうすればいいか、おれは時間をかけて考えた。そしてある日たまたま目にした資料から、アダム・ラーを倒す方法を発見したのだ。では、その資料をおまえたちにも見てもらおう」そう言うとエレメントXはテーブルの隅のスイッチを入れた。するとテーブルの中央に球形のスクリーンが浮き上がった。「これはアダム・ラーの戦い方を記録した映像だ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「これもそうだ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「これも」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして連中の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「連中の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、映像が切り替わった。
「それからこれもだ」
スクリーンの上にアダム・ラーとタップス、そしてスパークスが現われた。三人は並んで地面に伏せている。そしてそのまわりでは熱線銃の赤い火花が飛び散っていた。
アダム・ラーが言う。「すごい攻撃だな」
タップスがうなずく。「敵もなかなかやるようです」
「正面からはとても無理だ。なんとかして彼女の背後にまわりたいが…」
「しかし」タップスが唇を噛んだ。「どうやって…」
「そうだ」アダム・ラーが叫んだ。「ミニチュア光線だ」
「そうか」とタップスがうなずく。「ミニチュア光線でスパークスを縮小して」
「そして」とアダム・ラーがあとを引き取る。「彼女の背後にまわらせるのだ」
スパークスが顔をしかめた。「しかし、どうしてわたしなんですか?」
タップスが笑った。「はっはっはっ。臆病なやつだなあ」
「タップス」アダム・ラーが命令した。「用意しろ」
「喜んで」
エレメントXがスイッチを動かし、球形のスクリーンが宙に消えた。
「こいつは驚いた」ゴラッグが言った。
「毎回、同じとは」ヴァゾーが言った。
「信じられん」セプテムが首を振った。
わはははははとヴァイパーが笑った。
「つまりだ」エレメントXが指を立てた。「アダム・ラーは必ずミニチュア光線を持ち出してスパークスを縮小する、ということだ。だとすれば、おれたちはアダム・ラーにそれをさせないようにすればいい、というわけだ」
「ミニチュア光線を壊しておけばいい」
「いや、スパークスを殺せばいいんだ」
「いや、両方だ。破壊して、殺すんだ」
わはははははとヴァイパーが笑った。
「もっといい方法がある」とエレメントXが言った。「スパークスを誘拐するのだ。ミニチュア光線を破壊すれば、連中はきっと予備を持ち出す。スパークスを殺せば、アダム・ラーのことだ、きっとタップスか、替わりの誰かを縮小するに違いない。しかしスパークスが生きている限り、やつにはスパークスしか縮小することができないのだ。なにしろヒーローというのは間抜けで融通が利かないものだからな。だからスパークスを誘拐すれば、そしてスパークスがまだ生きていることをアダム・ラーに教えてやれば、やつは縮小作戦が使えなくなる。そのときこそが、おれたちのチャンスだ」
「それはすごい」とゴラッグが言った。
「天才の発想だ」とヴァゾーが言った。
「信じられん」セプテムが首を振った。
わはははははとヴァイパーが笑った。
「これでいよいよ」エレメントXがにんまりと笑った。「アダム・ラーもおだぶつというわけだ」
ゴラッグがうなずいた。「あんたはすごい」
ヴァゾーもうなずいた。「メテオブレインより頭が切れる」
「メテオブレイン? 知らないな。それはいったい何者だ?」
エレメントXが訊ねるとセプテムが答えた。
「小惑星帯を根城にしている悪党で、頭が切れるんで有名だ」
「本名はガストン・ラリュー」とゴラッグが言った。
「出身は地球だ」とヴァゾーが言った。
「ただし、おれが最後に会ったときには」とセプテムが言った。「たしか、バスティアン・ギーと名乗っていた」
「バスティアン・ギー?」エレメントXが胸をつかんでよろめいた。「そんなばかな。やつはおれがこの手で三年前に…」
このとき司令室のドアが音もなく開いた。エレメントXがかすむ目を向ける。そこに立っていたのは赤いトレンチコートを着たブロンドの女だ。
「モニーク」エレメントXが震える声を絞り出した。
モニークと呼ばれた女がコートのポケットからピストルを出し、腰だめに構えて二発撃った。薬莢が飛び、司令室に銃声が轟き、エレメントXが床にくずおれる。ドアが静かに閉じて女の姿を覆い隠した。
「エレメントXっ」叫びを放って悪党どもが駆け寄り、血まみれのエレメントXを抱き起した。
「ちくしょう」エレメントXがあえいだ。「おれにはわかっていた。いずれはこうなるとわかっていた。あの泥沼からは、一人として逃げ出すことはできないんだ」
エレメントXの口から血があふれた。
「誰か、誰か」悪党どもが声を合わせた。「誰か、こいつを助けてやってくれ。この地獄からこいつを助け出してやってくれ」
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.