2015年10月31日土曜日

トポス(13) 石の床に伝説の剣が突き立てられている。

(13)
 懲罰房にある剣を抜くためには、まず懲罰房に入らなければならなかった。どうしてそんなところにそんなものが。囚人たちはいぶかしんだ。古参の囚人の話によれば、剣のほうがまずそこにあったという。そしてその上に刑務所を作って、剣を壁で囲ったという。そいつはすごい、と囚人たちは感心した。
 名乗りを上げた囚人たちが懲罰房に入るために規則を端から破り始めた。起床時間を過ぎても寝床にとどまり、列を乱し、廊下を走り、床にごみを捨て、私語を慎めという命令を無視して私語を交わした。囚人たちは棍棒で叩かれ、懲罰房に放り込まれた。
 ヒュンも行動を開始した。ロボットに近づいて重要な情報があると耳打ちした。管理棟への道を開いて、所長との面会を要求した。所長は所長室でワイングラスを傾けていた。
「重要な情報があるそうだな ?」
 ヒュンは囚人たちの計画を説明した。
 くくくくく、と所長が笑った。
「その剣はたしかに存在する。見せてやろう」
 所長はヒュンをしたがえて刑務所の最深部まで下りていった。長い廊下があって、両側に懲罰房が並んでいた。どの懲罰房にも規則を破った囚人が一人ずつ入れられていたが、使われていない懲罰房が一つだけあった。所長がその懲罰房の前に立って扉を開けた。懲罰房の石の床に剣が突き立てられていた。
「抜いてみろ」
 所長がヒュンにうながした。ヒュンは懲罰房に入って剣の柄に手をかけた。一瞬の動作で引き抜いて、剣の切っ先を所長に向けた。
 くくくくく、と所長が笑った。
「おまえだったか」
 所長はすばやく退いて、鉄の扉を固く閉ざした。

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