2015年10月21日水曜日

トポス(3) ヒュン、ピュンとともに冒険の旅に出る。

(3)
 ピュンは魔法玉工場で働いていた。ハンマーを使って小鬼の頭を叩き割るのが仕事だった。壁に開いた穴の前で待っていると、薬を嗅がされてふらふらになった小鬼が顔を出す。そこへハンマーを振り下ろして一撃でとどめを刺すのが仕事だった。
 頭を砕いてはならなかった。
 角を潰してはならなかった。
 外すと正気を取り戻して逃げるので、やり直すことはできなかった。力の加減と微妙な角度と咄嗟の判断がものを言う繊細で複雑な仕事だった。
 頭を割られた小鬼はすぐに鉤に吊るされた。鎖で引かれて作業場に運ばれて、そこで服を剥がれ、皮を剥がれ、解体されて部位ごとに次の作業場へ運ばれた。皮は干して粉末にした。骨も砕いて粉末にした。肉は煮込んで脂肪を除き、それから天日に干して粉末にした。内臓は各種の香草と一緒に煮込んで脂肪を加えて玉に丸めた。粉末にした角も、粉末にした皮も骨も、脂肪を加えて玉に丸めた。玉に丸める工程では熟練工が鼻を頼りに調合を決めた。
 魔法玉工場では一日に五千個の魔法玉を出荷していた。魔法玉があれば魔法の知識がなくても魔法を使うことができるので、魔法玉は作る端から売れていった。魔法に頼ろうとする多くの者が魔法玉を買っていった。詠唱の手間を省きたい魔法使いも魔法玉を買っていった。そしてもちろん冒険者たちも魔法玉を買っていった。しかし小鬼の処分係の給料では魔法玉は買えなかった。
 ヒュンとピュンは魔法玉工場の塀を越えた。気がついて声を上げた警備員をハンマーの一撃で黙らせた。続いて現われた警備員は剣を振って斬り倒した。ヒュンとピュンは出荷場に押し入って、背嚢いっぱいに魔法玉を詰め込んだ。仕事を終えて背嚢を背負うと、朝焼けの中へ走り去った。

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