(10)
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人間の看守は残らず解雇されていた。手製のプラカードを高く掲げて刑務所の門の前に集まって、不当な解雇に抗議していた。
「俺たちの職場を俺たちに返せ!」
「あのロボットどもを追放しろ!」
「所長、一度くらい顔を見せろ!」
雨が降り始めた。冷たい雨が男たちをずぶ濡れにした。刑務所の門は閉ざされたままで、ただ管理棟の最上階に一度だけ、黒い影がちらりと見えた。所長だ、と男たちはつぶやいた。窓に向かってこぶしを振り上げる者もいた。
雨が降り続けた。一人の男が力尽きた。プラカードを足もとに投げ出して、雨に泡立つ冷たい地面に膝を突いた。濡れた白髪を額に貼りつけ、激しく咳き込みながら横たわった。あの初老の看守だった。仲間が走り寄って抱き起こし、男の額に手を這わせた。
「ひどい熱だ」
降りしきる雨を割って救急車がやってきた。倒れた男は病院へ運ばれ、医師は男を診て首を振った。若い女が飛び込んできて男の枕元に走り寄った。
「父さん」
男が薄く眼を開いた。
「クロエ」
そうつぶやいて娘の頬に手を這わせた。その手から力が抜けていく。クロエの濡れた瞳が医師を見上げた。
「残念ですが」
医師が静かに首を振った。
クロエの頬を涙が伝った。
Copyright c2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「俺たちの職場を俺たちに返せ!」
「あのロボットどもを追放しろ!」
「所長、一度くらい顔を見せろ!」
雨が降り始めた。冷たい雨が男たちをずぶ濡れにした。刑務所の門は閉ざされたままで、ただ管理棟の最上階に一度だけ、黒い影がちらりと見えた。所長だ、と男たちはつぶやいた。窓に向かってこぶしを振り上げる者もいた。
雨が降り続けた。一人の男が力尽きた。プラカードを足もとに投げ出して、雨に泡立つ冷たい地面に膝を突いた。濡れた白髪を額に貼りつけ、激しく咳き込みながら横たわった。あの初老の看守だった。仲間が走り寄って抱き起こし、男の額に手を這わせた。
「ひどい熱だ」
降りしきる雨を割って救急車がやってきた。倒れた男は病院へ運ばれ、医師は男を診て首を振った。若い女が飛び込んできて男の枕元に走り寄った。
「父さん」
男が薄く眼を開いた。
「クロエ」
そうつぶやいて娘の頬に手を這わせた。その手から力が抜けていく。クロエの濡れた瞳が医師を見上げた。
「残念ですが」
医師が静かに首を振った。
クロエの頬を涙が伝った。
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