C'Era Una Volta Il West
1968年 イタリア・アメリカ 165分
監督:セルジオ・レオーネ
鉄道会社の社長は専用車に乗り込んで延びる線路とともに西を目指し、太平洋の波の音を夢見ている。前方に現われる障害は雇われ者の殺し屋が銃で片づけ、ニューオリンズから鉄道でやってきた新妻は夫の家に到着して夫とその家族の遺体と出会い、ハーモニカを吹く男やひげ面のアウトローなどが現われて次第に状況を広げていく。
未亡人も殺し屋も謎の男もアウトローも、そして鉄道王もそれぞれに内面の問題を口に出さないままに抱えていて、そこへ利権と怨恨と野望と希望がからんでいく複雑なストーリーはセルジオ・レオーネ、ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチによる。レオーネの演出はほぼ常時ハイテンションを保ち、2時間45分の長尺ををまったくたるませない。語り口は豊かで、ただ見得を切る場面にもじっくりと手間と暇をかけ、見る者をひたすらに惹きつけるのである。出演者の演技もすばらしい。ヘンリー・フォンダが非情な悪役として登場するが、これが本当に悪人にしか見えないし、しかもただの悪人ではなくて自分が時代に乗り遅れていることをどこかで自覚していて、だから向上しなければならないと考えていても、その向上心が自分の本質的な部分とどうにも噛みあわない、というかなり複雑なキャラクターをそのままに演じているのである。やっぱりこのひとは偉い役者だと思う。自分のテーマ曲をハーモニカで引きずって現われるチャールズ・ブロンソンはとにかくかっこいい。クラウディア・カルディナーレは美しいし、どこかに二心を帯びて強ばったところから、やさしい表情を取り戻していく過程には見ごたえがある。しかしいち押しはジェイソン・ロバーズで、張りつめたところへこの男が間抜けなひげ面を抱えて現われると場面が和らいでほっとするし、最後にはつい涙を誘われる。60年代のレオーネ作品の特徴として撮影の粗さがときとして気になるが、いかにも大作らしく画面には常に奥行きがあり、美しいシーンも山ほどもあり、しばしば現われる大胆な構図には思わず興奮させられる。
Tetsuya Sato