2013年8月20日火曜日

主人公は僕だった

主人公は僕だった
Stranger Than Fiction
2006年  アメリカ 112分
監督:マーク・フォースター

国税庁の会計検査官をしているハロルド・クリックは几帳面な単調さに埋没して日々を送っていたが、ある日、女性の声が耳に現われてハロルド・クリックの行動を描写し、文学的に言葉を飾り始める。困惑したハロルド・クリックは精神分析医に相談し、精神科医に相談し(統合失調症だと言われる)、大学の文学部を訪れて教授に相談し、教授は話を真に受けて作者の調査に取り掛かる。ところがその作者というのは悲劇が専門でこれまでの作品でも主人公はことごとく殺されており、事実その作者はスランプ状態で頭を抱えながら今も主人公を殺す方法を考えていて、しかもその死はもちろん悲劇的でなければならないので死を待つハロルド・クリックの前には素敵な恋人が現われ、くすんでいた人生が唐突にきらめき始めるのである。
創作行為を斜めに眺めた着想が面白い。もう少し意地の悪い内容であってもよいのではないかと思ったが、傑作の完成と君の人生とどちらが大事かという身も蓋もない話にいちおうはなっていく。ウィル・フェレルとその恋人役のマギー・ギレンホールが実にいい感じで、ダスティン・ホフマンは文学部の教授を演じて妙なリアリティがあり、エマ・トンプソンはスランプ中の作家をいかにもという雰囲気で演じている。ハロルド・クリックの住まいを始め、室内の美術が非常に優れ、マーク・フォースターの演出は抑制があって心地よい。丁寧に作られた映画である。たぶん、この監督こういう映画のほうが向いている。


Tetsuya Sato