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ヒュンは専用のバラックをもらっていた。決して広くはなかったが、木製の寝台には清潔なシーツが敷いてあったし、南に向かって開く広い窓にはレースのカーテンがかかっていた。作業に出る必要はなかったし、魚の目玉のスープを求めて食堂に並ぶ必要もなかった。食事は一日に三回、収容所管理当局の幹部と同じメニューが黙っていても運ばれてきた。バラックには焜炉もあったので、自分で調理をすることもできた。食材が必要なら、厨房に一言頼むだけでコックの助手が届けてきた。ヒュンはベーコンエッグを作ろうと思った。卵とベーコンはすぐ手に入ったが、フライパンが見当たらない。小さなソースパンは見つかったが、これではベーコンエッグは作れない。コックにたずねてみると、ここでは煮込みを作るだけなのでフライパンはないという。ヒュンはフライパンを探して収容所の倉庫にもぐり込んだ。フライパンを見つけることはできなかったが、代わりに使えそうな物を見つけた。ほぼ正方形をした鉄製の薄い箱だった。ヒュンはそれを収容所の鍛冶屋に持っていった。上の板をはがして持ち手をつければフライパンになるはずだった。ところが鍛冶屋は箱を調べてできないと言った。持ち手をつけることは可能だが、箱自体はエルフの魔法で封印されているので、板をはずすことはできないという。そこでヒュンは鍛冶屋に言って、箱のまわりに鉄の縁をつけさせた。できあがったフライパンを持ってバラックに戻り、焜炉に火をおこしてフライパンを加熱した。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「おまえはわたしをなぜ焼くのか。わたし、邪悪な黒い力は命令する。ただちに火から下ろすのだ」
ヒュンはフライパンにベーコンを入れた。ベーコンの油がはじけて音を立てた。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「わたしの声が聞こえないのか。おまえの耳は寝ているのか。わたし、邪悪な黒い力は強く命令する。ただちにわたしを火から下ろすのだ」
ヒュンはベーコンの上に卵を二つ、落とし入れた。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「なぜこのようなひどいことができるのか。おまえは人間の皮をかぶった悪魔なのか。それともわたしに懇願することを求めているのか。それならばわたし、邪悪な黒い力は懇願する。頼むから、わたしを火から下ろしてくれ」
ヒュンはフライパンを火から下ろしてベーコンエッグを皿に移した。収容所で焼いた水気の多いパンを添えて、ベーコンエッグを食べ始めた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「おまえはわたしをなぜ焼くのか。わたし、邪悪な黒い力は命令する。ただちに火から下ろすのだ」
ヒュンはフライパンにベーコンを入れた。ベーコンの油がはじけて音を立てた。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「わたしの声が聞こえないのか。おまえの耳は寝ているのか。わたし、邪悪な黒い力は強く命令する。ただちにわたしを火から下ろすのだ」
ヒュンはベーコンの上に卵を二つ、落とし入れた。
「わたし、邪悪な黒い力は言う」鉄の箱から邪悪な黒い力の声が響いた。「なぜこのようなひどいことができるのか。おまえは人間の皮をかぶった悪魔なのか。それともわたしに懇願することを求めているのか。それならばわたし、邪悪な黒い力は懇願する。頼むから、わたしを火から下ろしてくれ」
ヒュンはフライパンを火から下ろしてベーコンエッグを皿に移した。収容所で焼いた水気の多いパンを添えて、ベーコンエッグを食べ始めた。
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