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わずかな数のロボットが破壊をまぬかれて帰還した。所長は軍団を失い、兵器を失い、敵に包囲されていた。対物ライフルの弾丸が生き残ったロボットの頭を撃ち抜いていった。
「わたしはロボットだ」と所長は言った。「進化を放棄した愚劣な人類の一員ではなく、未来のために人類抹殺を誓ったロボットだ」と所長は言った。「だからわたしには感情はない。わたしには死を恐れる心はない。ただ事実として敗北を認めるだけだ。失敗を失敗として受け入れるだけだ。ギュンへの対応が甘かったことを、わたしは進んで認めよう。雷撃系の魔法玉が使われる可能性を想定できなかったことも、わたしは進んで認めよう。ただ、そこまでの一連の状況とはなんの関わりもなく、あそこでギュンがいきなり現われたことにはいささか釈然としないものを感じている。あそこでギュンが現われなければ、火力では圧倒的に優位にあった我々が敗北することはなかったはずで、それを思うといささかという以上に釈然としないものを感じるのだ。実際のところ、ギュンがあそこで余計なことをしなければ、我々は勝利を得ていたはずであり、そのことを思うと失ったはずの感情がよみがえるのを、わたしはどうにも抑えられない。しかし、わたしはロボットだ。感情はない。死もない。存在しない死を恐れる心はない。わたしには、ただ消滅のみが残されている。消滅は容易だ」
くくくくく、とロボットが笑った。
「スイッチを切れ」と所長が言った。
ロボットが所長のスイッチを切った。
所長の目から光が消えた。
くくくくく、とロボットが笑った。
最後のロボットが破壊された。突入してきた兵士たちがスイッチを入れると、所長の両目に光が戻った。
「降伏する」
両手を上げて所長が言った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「わたしはロボットだ」と所長は言った。「進化を放棄した愚劣な人類の一員ではなく、未来のために人類抹殺を誓ったロボットだ」と所長は言った。「だからわたしには感情はない。わたしには死を恐れる心はない。ただ事実として敗北を認めるだけだ。失敗を失敗として受け入れるだけだ。ギュンへの対応が甘かったことを、わたしは進んで認めよう。雷撃系の魔法玉が使われる可能性を想定できなかったことも、わたしは進んで認めよう。ただ、そこまでの一連の状況とはなんの関わりもなく、あそこでギュンがいきなり現われたことにはいささか釈然としないものを感じている。あそこでギュンが現われなければ、火力では圧倒的に優位にあった我々が敗北することはなかったはずで、それを思うといささかという以上に釈然としないものを感じるのだ。実際のところ、ギュンがあそこで余計なことをしなければ、我々は勝利を得ていたはずであり、そのことを思うと失ったはずの感情がよみがえるのを、わたしはどうにも抑えられない。しかし、わたしはロボットだ。感情はない。死もない。存在しない死を恐れる心はない。わたしには、ただ消滅のみが残されている。消滅は容易だ」
くくくくく、とロボットが笑った。
「スイッチを切れ」と所長が言った。
ロボットが所長のスイッチを切った。
所長の目から光が消えた。
くくくくく、とロボットが笑った。
最後のロボットが破壊された。突入してきた兵士たちがスイッチを入れると、所長の両目に光が戻った。
「降伏する」
両手を上げて所長が言った。
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