S3-E25
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回帰
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旋回灯をつけたバンがとまって、黒い制服の男たちが降りてきた。一人はショットガンをかまえている。男たちは一軒の家に入っていった。ショットガンの男は見張りに残って、集まってきた見物人をにらみつけた。しばらくすると男たちが戻ってきた。退行者を見つけて、足を掴んで引きずっている。ほとんどの退行者は見つかったときには歩くことができなくなっている。ストレッチャーを使えば移送が楽になるはずだが、制服の男たちは必ず足を掴んで引きずった。退行者は汚れたバスローブをまとっていた。人間の姿は、あまりとどめていなかった。男たちが掴んだ足は、形が尾鰭に変わっていた。男たちが引きずっているのは自堕落な人間にアシカと魚を足したような奇怪で醜悪な生き物だった。黒い制服の男たちが退行者を持ち上げて、バンの荷台に放り込んだ。男たちの顔にも退行の跡を見ることができた。退化したまぶたをサングラスで隠しても、発達し始めた鰓を制服の襟で隠しても、退行の跡は見ることができた。体臭もそうだ。髪もそうだ。安いカツラはすぐにわかる。遠からず彼らも、杖の助けがなければ歩くことができなくなるだろう。着られる服がなくなって、バスローブを羽織るようになるだろう。進む速さが違うだけで、この流れから逃れた者は一人もない。旋回灯がまたたいた。退行者を積んだバンが見物人を残して走り去った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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