2015年3月13日金曜日

Plan-B/ 部屋

S3-E32
部屋
 この部屋には台所がなかった。浴室もなかった。床の板はたわんでいて、歩くたびに音を立てた。午後の黄ばんだ日射しが黄ばんだカーテンを貫いている。男は部屋の中央に置かれたストーブにフライパンを差しかけて小さなステーキを焼いていた。脂身がはじけ、肉汁が静かに音を立てている。肉が焼けるにおいが部屋に充満する。ドアが開いて向かいの部屋の女の顔が現われた。くたびれた顔を厚い化粧で覆い隠して男のステーキに目をやった。女の視線に撫でられて、男は狼狽を隠せない。男は女に焦がれていた。焼けたばかりのステーキを女の前に差し出した。皿に移して勧めると、女は一つしかない椅子に腰を下ろして男のステーキをむさぼった。男は女を見守った。うつむいて、ひたすらに顎を動かす女のうなじを食い入るように見つめていた。

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