S4-E06
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旅人
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旅人は追われていた。行く先々で数々の悪事を働いて、数えられないほど多くの町から指名手配されていた。どの町にいっても、旅人の似顔絵が目立つ場所に貼られていた。なかには賞金付きの似顔絵もあった。もう、何人も殺していた。何人もの男女を誘拐して身代金を奪っていた。子供をさらったこともあったし、誘拐してから殺したことも何度かあった。何度盗みを働いて、何度ひとをだましたのか、旅人はまったく覚えていなかった。何人の背中を刺して、何軒の家に火をつけたのか、旅人はまったく覚えていなかった。ひとに傷を負わせるつもりで傷つけたことは一度もなかった。殺すつもりで殺したことも、一度もなかった。さらうときにはさらうつもりでさらったし、だますときにもいくらかはだますつもりでだましたが、さらわれた相手が恐怖を感じて泣き叫び、だまされた相手がだまされたとわかって怒り出すと、旅人はいつも本当に驚いた。旅人にはなにが起きているのか、わからなかった。人々が怒ったり悲しんだりする理由がわからなかった。世界はこれほどまでに美しいのに。人生はこれほどまでに自由なのに。追われていることを頭のどこかにとどめながら、旅人はいたって軽い足取りで次の町を目指して進んでいった。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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