歩兵は攻撃する
Infanterie greift an
エルヴィン・ロンメル, 1937
浜野喬士・訳
作品社
エルヴィン・ロンメルによる第一次大戦従軍手記。ヴュルテンベルク第六歩兵連隊の少尉として1914年から1915年までアルゴンヌで戦い、昇進して中尉になると新たに創設されたヴュルテンベルク山岳歩兵大隊に配属となって1916年からカルパチア山中でルーマニア軍と戦い、1917年からはイタリア戦線でイタリア軍と戦う。つまり第一次大戦で一般的に想起される西部戦線の泥沼的な状況はほとんど経験しておらず、アルゴンヌにいた時期もまだ森がある。ルーマニア戦線に移ってからは一貫して山岳戦で、どうかすると高低差が300メートル以上もある戦場をひたすらに登ったり下りたり、寒さに震えたり暑さに焼かれたり、空腹に苦しんだりしながら、ただもうひたすらに偵察をして地図を読んで、敵の配置を観察して自軍に優位な地点を探し、作戦を考え、兵を配置し、疲労の極限と戦っている。当時のドイツ軍の運用がいまひとつわからないのだが、少なくとも山岳戦ではかなり臨機応変と言うべきなのか(あるいは下級将校の損耗率が高いせいか)、小隊長クラスがふつうに中隊を指揮しているし、ロンメル本人が「ロンメル隊」と呼ぶ部隊も状況によって数個中隊から砲兵隊を含む連隊規模にまで変化し、一貫して機動戦が展開され、エミリオ・ルッスが『戦場の一年』で描いたような膠着した状況は出現しない。ロンメルは自身で経験した一連の戦闘の立体的に、わかりやすく記述し、作戦が終了するごとに考察を加えて戦術上のポイントを指摘している。そして全体をとおして感じるのは、このひとは最初から電撃戦をやっていて、機会があれば危険を冒しても突出していた、ということである。こういう指揮官に戦車を与えて平地や砂漠を進撃させたら、それはもうどこまでもいってしまうであろう、ということである。戦場における部隊運用についての噛み砕いた記述が興味深く、非常に面白い。
Tetsuya Sato