S6-E16
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女神
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力尽きた馬を捨てて夜の道をひたすらに歩き、月の明かりに照らされながら不穏な気配を感じて振り返ると、女神が埃を蹴立てて追いかけてくるのが目に入った。白い衣の裾をひるがえして、手に剣を握っていた。わたしは呪われていた。だから女神に追われていた。わたしが出かけていくところなら、女神はどこにでも現われて、わたしを指差し、わたしを罵り、わたしを中傷する言説を広めた。多くの町でわたしは出入り禁止を言い渡され、わたしを庇おうとした人々は女神によって滅ぼされた。いくつかの町ではわたしは死刑を宣告され、わたしは処刑人の腕を振り切って処刑用の穴の前から逃げ出さなければならなかった。わたしは逃げ続けた。逃げ続けなければならなかった。逃げるのに疲れて女神を刺したこともある。十分に刃渡りのある剣を使い、はっきりとした手応えも感じたが、女神はわたしをにらんで呪いの言葉を吐き散らしただけだった。わたしに刺されてからというもの、女神は剣を持つようになった。ただ持っているだけではなくて、機会があれば使おうとした。月の明かりに照らされて、女神が剣を振り上げて雄叫びを放った。わたしは道を走り始めた。荷物を捨てた。剣も捨てた。わたしにはもはや、和解に至る道は残されていない。わたしは滅びに至る道の残りを、命惜しさに走り続けた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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