S6-E08
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岩
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人々の腕が乙女を捕えた。乙女は腕を掴まれて暗い浜辺に引き立てられた。浜辺では腰から袋を提げた裸の若者たちが待っていた。人々は若者たちに乙女を渡し、若者たちは乙女を担いで荒れる海に入っていった。若者たちが波を越えて沖へ進んだ。若者たちは乙女を支え、乙女は流されまいとして若者たちの腕や肩にしがみついた。そびえる岩が波を砕いてしぶきを飛ばした。若者たちは乙女とともに岩に上がり、乙女の足もとに太い杭を打ち込んだ。杭から鎖を伸ばして乙女の足首に巻きつけた。さらに二本の杭を乙女の頭をはさむように打ち込んで、それぞれの杭から鎖を伸ばして乙女の両の手首に巻きつけた。風が吹き荒れた。波が岩に押し寄せた。若者たちは乙女を残して岩から逃れ、波を越えて浜に戻った。白いしぶきが岩を襲った。波が岩を飲み込んだ。連なる波が浜辺を洗い、風が波を泡立てた。一瞬、風が吹きやんで波が岩から退いたが、岩の上の乙女の姿はなくなっていた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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