S6-E07
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河
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百万の軍勢が前進を始めた。馬が土を蹴立てて進み、槍を抱えた歩兵の群れが渦巻く埃をあとに引いた。こぶの上に兵士を乗せた駱駝の群れが長い睫で砂を弾き、弓兵を乗せた象の群れが砂塵をしたがえて道を踏んだ。雑兵たちは顔を分厚い布でくるみ、行李を運ぶ駄獣の群れは首を垂れて砂をくぐった。日が中天に達したころ、軍勢は激しい渇きに襲われた。水をたたえた河に出会って、貪るように水を飲んだ。将軍が飲んだ。騎兵が飲んだ。馬が飲んだ。歩兵が飲んだ。弓兵が飲んだ。象が飲んだ。雑兵たちは残った泥を口にふくんで罵声とともに吐き出した。そして駄獣の群れは渇きをこらえて、すっかり干上がった河を渡った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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