S6-E17
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弓
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森の奥で青く生える泉のほとりに弓を手にした娘たちがやって来た。弓と箙を樹に立てかけて、髪留めを取って髪を下ろし、流れる髪を揺らしながら腰帯を解いた。服をその場に脱ぎ捨てて、白い足で駆け出して泉の水に滑り込み、なめらかに腕をかいて髪を濡らした。水面から腰まで出して落ちるしずくを振り落とし、笑いさざめきながら互いに水をかけ合うと、間近に見える藪の中では若者が乾いた唾を呑み下した。若者は木の葉の陰に隠れて、息を殺して娘たちを見守っていた。なによりも気づかれることを恐れていたが、娘たちが胸を躍らせながらきらめくので、知らぬ間に引き寄せられて気がつく前に小枝を踏んだ。足の下で小枝が折れて音が空気を引き裂いた。娘たちは目を開いて泉から飛び出し、すぐさま弓と箙を手に取った。若者はもつれる足で逃げようとして、弓に矢をつがえた娘たちに囲まれた。若者は憐れみを求めて娘たちを見上げたが、娘たちは一瞬も躊躇しなかった。一斉に弓を引き絞り、必殺の矢を若者の胸に打ち込んだ。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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