S3-E19
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薄暮
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ぼ、ぼくは吸血鬼だ。だが、古い掟によって縛られているわけではない。ぼくはたしかに吸血鬼だけど、血を吸わないという選択ができる。つまり吸血鬼にも選択ができると考えている、そういう開明的なグループの一員だ。その一方で、吸血鬼には選択はできないと考えている連中もいる。ぼくらはやつらを知的な面で劣っていると考えているけど、やつらはぼくらを自然に反していると考えている。ぼくはもう、百年も生きている。百年も生きていればそこそこに落ち着いて、利口になって、何事に対しても冷静にふるまうことができてもおかしくないと思うけど、ぼくはここのところ落ち着きを失っている。それもちょっとやそっとではなくて、すっかり落ち着きを失っている。どうやら恋をしているようだ。人間の女の子だ。彼女のことを考えると死んでいるはずの心臓が高鳴って、冷たいはずの血が熱くなる。気がつくと牙が飛び出している。ぼくは自分が選択のできる吸血鬼であることに感謝している。選択のできないやつらなら、もうとっくの昔に彼女の喉にむしゃぶりついていたことだろう。そうすることが自然だと言われればたしかにそうだという気もするし、そのほうがいろいろと楽なのではないかという気がするのも事実だけど、でもぼくには選択ができる。もう少し頑張ってみよう。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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