S3-E16
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生物
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巨大な物体が地球に向かって近づいていた。ほぼ完全な球体をしていて、その直径は一万キロメートルを超えていた。いくつもの探査機が飛んで、その物体を観測した。物体の質量は予想よりもはるかに小さかった。密度はさらに小さかった。科学者たちはこの物体がおもに水でできていると考えた。わずかではあるが、物体は熱を放っていた。物体の表面はほぼ均等に摂氏五十度を保っていた。科学者たちは首をひねった。首をひねっているあいだに、それがいよいよ近づいてきた。夜になると月の隣にそれがいるのを見ることができた。それはさらに接近した。いくらもしないで真昼の空を覆い尽くした。人々が見上げる前で、それは大きな口を開けた。唇がまくれ上がり、歯列矯正器をつけた歯が現われた。それは舌なめずりをしながら地球にしゃぶりついて、生きとし生けるものを食い尽くした。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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