S3-E05
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偏見
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田舎紳士の娘は自分の当初の判断にいくらかの誤りがあったことを認めようという気持ちになっていた。お金持ちで、しかも若くてハンサムなあの紳士は相変わらずどこか高慢な態度でふるまっていたが、それはもしかしたらあの紳士がこちらが考えている以上に恥ずかしがり屋で、いくらか朴念仁じみたところがあるからなのではないだろうか。だから同じ世代の男性が女性の前で見せるような、言わば如才のなさを発揮することができないのではないだろうか。礼儀正しさでは誰にも負けることがなかったし、親切に思えることもときにはあった。事実から言えば、かなり親切だということは認めなければならないだろう。そして驚いたことに何度かは、心が通じ合っているように思える瞬間があった。それはすばらしい瞬間だった。しかし瞬間は瞬間に過ぎなかったので、次の瞬間にはもう心がすれ違っていた。喜びに続いて味わう虚しさには、どうにも耐えがたいものがあった。あの高慢さが、と彼女は自分に言い聞かせた。あのかたくなな高慢さが、と彼女は自分に繰り返した。あの瞬間を瞬間で終わらせてしまうのだ。これは座視できない、と誇り高い娘は憤った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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