Double Indemnity
1944年 アメリカ 106分
監督:ビリー・ワイルダー
1938年のロサンゼルス。保険外交員ウォルター・ネフは石油会社の重役ディートリクスンの家へ自動車保険の更新のために訪れたところ、応対に現われたディートリクスンの妻フィリスに牽かれる。そのフィリスから夫に知られないように夫を死亡特約付き障害保険に加入させる可能性について打診され、ウォルター・ネフは悪巧みの気配を嗅ぎ取るものの、いわゆる金と女への欲望に抗しきれなくなって、自分から犯罪に関わっていく。
ジェームズ・M・ケインの原作小説をビリー・ワイルダーとレイモンド・チャンドラーが脚色している。あきらかに自分を色男だと考えているハードボイルドな保険外交員がフレッド・マクマレイ、心の腐った(と自分で言う)人妻がバーバラ・スタンウィック、事件の真相を探る保険調査員がエドワード・G・ロビンソンである。冒頭、フレッド・マクマレイはすでに撃たれた状態で登場し、無人のオフィスに入っていって、そこで親友の調査員へ向けてレコード盤に事件の真相を語り始める、という構成になっている。夫殺害の場面、アパートでのきわどい遭遇場面など、渋いサスペンス演出が随所に見られ、語り口によどみのないところはさすがだと感心するが、前に一回会っただけの保険外交員が二度目に会ったときにはすでになれなれしくなっていて、しかも、あんた俺に惚れてるだろモードを隠しもしないということになると、いかに時間を節約するためであるとしても、いささか疑問を抱かずにはいられないのである。つまり、ハードボイルドなモノローグというのは、語り手の現実認識について、第三者に多少の疑問を抱かせる種類のものなのであろう。
Tetsuya Sato