S5-E30
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艀
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工場の煙突が黒い煙を吐き出している。束になった煙が太陽を隠した。河は汚泥に浸って悪臭を運び、貝のように軒を連ねた川辺の家では人々が顔を背けて窓を閉ざした。何艘もの艀がつながって、一隻の曳き船に曳かれて黒い河を下っていく。艀の船倉はどれも金網で覆われていた。金網の下では灰色をした生き物がひしめいて、網をつかんで、口を開け、痩せた肩を怒らせながらじっと空を見上げている。艀の列が橋をくぐった。薄い光の下にまた現われた。金網の下の生き物がまぶたのない目で空を見上げた。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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