S5-E28
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工場
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その工場では工員に死者を使っていた。正確には死者ではなくて、死にチャレンジされた人々だったが、医学的には死んでいたし、この問題に関する限り、政治的な正しさよりも医学的な正しさのほうが好まれたので、死者はやはり死者だった。死者を雇う企業は限られていたので、その工場が募集をかけると求人枠の百倍以上の死者が集まった。工場は高学歴の死者を選んで採用し、法定賃金の半分に満たない額を給与として支払っていた。死者たちは賃上げを要求した。拒絶されると組合を結成して工場を占拠し、全員でハンガーストライキに突入した。そして十日間にわたるにらみ合いのあと、工場を包囲していた機動隊が鎮圧命令を受けてピケラインを突破した。機動隊は盾と棍棒で武装していたが、火力による支援は受けていなかった。火力による支援がないまま機動隊が入ってきたことに、まず死者たちが気がついた。続いて機動隊の隊員たちも火力による支援がないまま突入したことに気がついた。盾と棍棒だけでは飢えた死者の大群から身を守ることはできなかった。機動隊は全滅した。死者たちは本能にしたがって、あるいは偽りの人生を捨てて本来の自分を肯定し、血がしたたる生肉を口に運んで空腹を満たした。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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