Habemus Papam
2012年 イタリア/フランス 106分
監督:ナンニ・モレッティ
前法王の死を受けてコンクラーベが始まり、システィナ礼拝堂にこもった枢機卿たちはどうか自分が選ばれたりしませんようにと祈りながら投票を繰り返して数度にわたる投票の末にロンドンのブックメーカーが90倍のオッズにしていたメルヴィルを法王に選び、メルヴィル枢機卿はその場の雰囲気に負けて投票の結果を受け入れるものの、広場に集まった信徒の前に法王として立って祝福を与えようとしたところ、突如として叫びをあげてその場から逃げ出し、そのまま本人としても不可解な立ち往生に陥るので、ヴァチカンに招かれた精神科医の紹介で身分を隠してローマ市内の精神科医の診断を受け、保育障害にこだわるこの精神科医から保育障害があると言い渡されるとそのまま護衛の目を盗んで市内に逃れ、あっちをうろうろ、こっちをうろうろしながら責任と恐怖のあいだで悶々とする。
法王がミシェル・ピコりで、福々しさに不安を交えた表情は実に味わいがあるが、どちらかと言えばアイデアが先行していて構成はややまとまりを欠き、枢機卿ばかりのバレーボール大会といった異様な場面もあるものの、作り手の宗教的疑念(しかもそれを口にするのが精神科医役の監督本人)のせいか、ヴァチカンは権力機関としてのモチヴェーションを見失ったネガティブな存在として仕上げられ、そこにたむろする枢機卿はかわいらしいおじいさんの群れとして丸められている。映画がまとうこの空気にある種の実感を感じたが、ショッキングな結末を目撃すると、なにもここまで後退させなくても、という気持ちになる。
Tetsuya Sato