2015年1月12日月曜日

Plan-B/ 球体

S2-E17
球体
 その病気は潜伏期間がやや長くて、初期症状が軽い風邪と変わらないので気がついたときには全世界に広がっていた。咳と軽い発熱で始まり、これが一週間ほど続いたあとで中期症状に移行する。全身が重たくなって関節に軽い痛みを覚え、腕や脚に所在のはっきりとしない痒みを感じる。この状態が三日ほど続くと腕や脚にいくつもの発疹が現われ、数日で鼠蹊部や顔、背中に広がっていく。発疹は間もなく黒くなり、乾燥した皮膚が剥がれ落ちると下から黄ばんだ色の球体が顔を出す。球体は直径一センチほどで、おもにリン酸カルシウムからできている。球体は自然に排出されて皮膚に小さな穴を残すが、しばらくすると別の球体が同じ穴に現われる。球体が排出される時期になると、体内では骨粗鬆症が重篤な段階に達している。早い段階からのカルシウムの投与が進行を遅らせることはわかっているが、症状をとめる手段はいまのところ存在しない。この病気にかかって生還した者はいまのところ一人もない。末期になると患者は動くことができなくなる。動いただけで骨が砕ける。球体の生成は患者が死亡するまでとまらない。

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