The Grand Budapest Hotel
2013年 イギリス/ドイツ/アメリカ 100分
監督:ウェス・アンダーソン
1980年代、東欧某所で老齢の作家(尊敬されているらしい)が作品は作家の創意ではなくひとから聞いた話で成り立っているというような告白を始め、その証拠に、ということで時間を20年ほどさかのぼってグランド・ブダペスト・ホテルを訪問した折の体験を語り、その話の中でまだ若い作家はホテルのオーナーである高齢のミスター・ムスタファ・ゼロと食事をともにし、ミスター・ムスタファ・ゼロは若い作家を相手に時間を30年ほどさかのぼって体験を語り、その話の中では全盛期のグランド・ブダペスト・ホテルで金持ちの老婦人を相手に浮名を流した伝説のコンシェルジュが大富豪マダムDの死をきっかけになにやら陰謀に巻き込まれる。
伝説のコンシェルジュがレイフ・ファインズ、若い作家がジュード・ロウ。どこかオルドリッチ・リプスキーやカレル・ゼーマンを思い起こさせる書き割りやミニチュアが乱立する架空の東欧を背景に大量のスターを登場させて、それぞれにいかがわしい役をもらった豪華キャストが嬉しそうになり切っている。ウェス・アンダーソンというとぬるめの演出がどうしても好きになれない監督だし、ただのスター隠し芸大会だと言えなくもないものの、脚本兼任で仕上げたこの作品はテンポが速く、一瞬も時間を無駄にしていない。そしてあふれるほどのばかげた東欧情緒が文句なしに楽しいとすれば、これはほめないわけにはいかないだろう。
Tetsuya Sato