2015年1月10日土曜日

Plan-B/ 融合

S2-E16
融合
 その初老の夫婦は店の馴染みの客だった。水曜日の夜にやってきて、窓辺の席で外を眺めながら夕食を取った。コースのあとにはいつもチーズを取り、デザートのあとには必ずエスプレッソを注文した。その日はすでに食事を終えて、夫婦は向かい合ってエスプレッソを飲んでいた。夫人が不意に顔をしかめた。夫に顔を近づけてなにかをささやき、店の奥に向かって目くばせをした。その方角では若い男女がソファーに並んで座っていた。テーブルには二皿目の料理が載っていたが、手をつけた様子はどこにもない。二人は肩を寄せて、大きく開いた目を天井のあたりのどこかに向けて、半開きにした口から濁ったよだれを垂らしていた。見ているうちに男のスーツの下から触手のようなものが這い出した。ぞろぞろと這い出して音もなく服を裂いていく。触手の先が女に触れると女のからだからも触手の束が現われた。触手と触手が絡み合い、次第に二人を包んでいく。絡んだ触手は一つになり、一つになった触手は溶けるように二人のからだに加わっていく。夫はエスプレッソを飲み干すと、店員を呼んで勘定を頼んだ。店を出るときに夫人のほうが振り返って、吐き捨てるようにこう言った。上品な店だと思っていたのに。

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