S2-E08
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偽者
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彼女は夫の変化に気がついた。初めは些細なことのように思えたが、そのうちに夫が夫ではないような気がしてきた。まず用足しのあとで便座を下げておくようになった。下着一枚の姿でいるのを見かけなくなり、煙草をやめ、率先して家事をするようになった。夫が変化して以来、台所や風呂場がぴかぴかになった。そして驚いたことに彼女に愛をささやくようになり、ただささやくだけではなくて実践もした。夜になると庭に出て、星に向かって奇妙な言葉をつぶやくことを除けば彼女の夫は本当に完璧な夫だった。だから彼女はピストルを買った。ある晩、夫がソファーに座ってくつろいで、あれやこれやと週末の計画を話しているとき、彼女はうしろから忍び寄って引き金を引いた。至近距離で発射された.38口径の弾丸は夫の頭を貫通して額に大きな穴を開けた。穴から飛び出してきたのは血でもなければ脳漿でもなかった。得体の知れない機械の破片と得体の知れない液体だった。ほらやっぱり。彼女は悲しそうに口を歪めた。
Copyright ©2014 Tetsuya Sato All rights reserved.
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