S4-E24
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牙
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強い飢餓感がそれの本能を脅かした。それは自分の感覚に集中した。獲物がいる。立ち上がって獲物のにおいを追っていった。それが動くと木の枝がしなって、枯れ枝がはじけた。足音を忍ばせるには、それのからだは大き過ぎた。水のにおいが鼻を覆った。水のにおいをかき分けて、獲物のにおいを見つけ出した。近い。そう思う間もなくそれは獲物に目をとめて、藪のなかから飛び出した。男と女が目を丸くしている。恐怖の叫びを上げようとしている。それは足が川原の小石に触れるのと同時に首を振って男のからだを跳ね飛ばした。女が立ち上がるあいだに態勢を整え、逃れようとする女の背中をとがった爪で引き裂いた。倒れたところへ駆け寄って喉笛をすばやく食い破った。身を翻して男に近づき、からだを足で押さえ込むと首筋に鋭くとがった牙をあてた。牙が男の血に浸った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
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