2015年4月14日火曜日

Plan-B/ 腫瘍

S4-E22
腫瘍
 その患者は大腸に悪性の腫瘍ができていた。患者が手術室に運ばれてきて、手術台に横たえられた。患者のからだに心電図や血圧計、パルスオキシメーターなどの計測装置が取り付けられ、腕には点滴用の針が刺し込まれた。静脈麻酔で患者が意識を失うと、麻酔医が患者の口から管を差して患者の肺に酸素を送った。管がテープで固定され、看護師たちが計測装置の数値を読み上げ、執刀医は患者の状態が安定していることを確かめて手術の開始を宣言した。患者の腹が消毒され、患者の腹に印がつけられ、執刀医の手にメスが渡った。患者の腹が切り開かれ、鉗子が患者の肉を押さえ込んだ。患部が現われた。執刀医がマスクの下から声を上げた。黒い腫瘍が身震いをしている。飛び上がって執刀医の顔に貼りついた。剥がそうとしても剥がれない。黒い肉の下から鋭い牙が飛び出して執刀医の顔を刻んでいく。絶叫が上がり、看護師たちは医師を助けようと手を伸ばす。腫瘍から強酸性の液体が噴き出して看護師たちの顔を焼いた。機械が倒れ、棚が倒れ、手術器具が床を滑る。麻酔医は患者のかたわらに立って患者の呼吸を見守りながら、患者の腹からさらになにかが現われたのを目の片隅でとらえていた。

Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.