2012年9月30日日曜日

アイアン・スカイ

アイアン・スカイ
Iron Sky
2012年 フィンランド/ドイツ/オーストラリア 93分
監督:ティモ・ヴオレンソラ

選挙を間近に控えたアメリカ合衆国大統領は人気取りのために黒人ジェームズ・ワシントンを月面に送り、月面に送られたジェームズ・ワシントンは月の裏側にひそんで地球侵攻の機会を虎視眈々と狙っていたナチに捕獲され、劣等人種であるということでアーリア化され、そのジェームズ・ワシントンが携えていたスマートフォンが月の裏側のナチの究極兵器『神々の黄昏』号の起動を可能にした、ということで月の裏側のナチで次期総統の地位を狙うクラウス・アドラーはスマートフォンをいっぱい手に入れるためにジェームズ・ワシントンをしたがえて地球を訪れ、ニューヨーク郊外に着陸してマリファナを栽培しているお百姓の銃撃を受け、いつの間にかナチ円盤に乗り込んでいたクラウス・アドラーの婚約者レナーテ・リヒターとともにフォルクスワーゲンのバスを黒人から奪って大統領への接近を試み、大統領の私的広報係をさらってレナーテ・リヒターがいわゆる国家社会主義の宣伝をおこなったところ、これは使えるということでクラウス・アドラーとレナーテ・リヒターは大統領選の道具になり、なにやらすっかり現代アメリカになじんだレナーテ・リヒターは白人のホームレスと化したジェームズ・ワシントンとの再会を果たし、あきらかに任務を放棄しているクラウス・アドラーの前にはウド・キア扮するところの月の裏側のナチの総統コーツフライシュが現われ、コーツフライシュから総統の地位を奪ったクラウス・アドラーは地球への総攻撃を命令し、みずからはiPadを携えて月の裏側に戻って『神々の黄昏』号の起動にかかり、国家社会主義の迷妄から解放されたレナーテ・リヒターもまたジェームズ・ワシントンとともに月の裏側に戻って『神々の黄昏』号の起動を阻止しようとたくらみ、そうするあいだに各国がそれぞれ秘密裡に準備していた地球艦隊は月の裏側のナチの艦隊との戦闘に突入する。
『スターレック 皇帝の侵略』に比べると破格のスケールで、脚本は変わらずにゆきあたりばったりではあるものの、演出に関してはいちおうの前進を見ることができる。つまり、あいかわらず野暮ったいところは野暮ったいものの、仕上がりはそれなりに洗練されているし、月の裏側のナチの美術面における造形は破格であると言ってもいい。とにかく手間はかかっているのである。というわけで期待半分ほどで鑑賞したところ、期待はよいほうへ裏切られた。ただ、ウド・キアにはもう少し変なことをしてほしかった、という気がしないでもないし、結末にいたって出現するペシミズムはこの題材としてはたぶんストレート過ぎるのではあるまいか。 


Tetsuya Sato

2012年9月29日土曜日

宇宙戦争(2005)

宇宙戦争
The War Of The Worlds
2005年 アメリカ 114分
監督:スティーブン・スピルバーグ

ニュージャージーの港湾労働者レイ・フェリエーは離婚歴があり、別れた妻は東部のエスタブリッシュメントと再婚している。子供たちとの面会の日、十代の息子と十歳の娘がフェリエーの家を訪れる。家のなかは散らかり、居間にはV8エンジンが置き去りにされ、食べる物はろくになく、別れた妻はフェリエーの冷蔵庫を開けて批判する。そして息子は反抗し、娘は意見し、噛みあわないまま仕事に疲れたフェリエーは床に入り、起き上がって外へ出ると空は暗雲で覆われている。激しい稲妻が地上を襲い、近所の十字路に穴がうがたれ、そこから恐ろしくもったいぶって三本足の戦争機械が出現し、光線兵器で逃げ惑う人類をなぎ払う。フェリエーは泡を食らって家へ戻り、子供たちを連れて町から逃れ、別れた妻の実家を目指して進み始める。
登場人物を取り巻く空気は常に不穏で緊張に満たされ、視野の片隅には気がつくといつも不気味な丘があり、その丘を乗り越えて不気味な戦闘機械が出現する。トム・クルーズは突発的な状況に投げ込まれた肉体労働者を好演し、視点はそこに固着して大局が見えることは一度もない。それだけに非力が際立ち、戦闘機械が放つ光線よりも、追い詰められた人間が放つ一発の銃弾のほうが恐ろしいし、侵略者たちが自滅したあとで再びそそり立つ階級差の壁も高く見える。視覚面でも音響面でもよく造形された見ごたえのある作品であり、原作と1953年版の幸福な融合がここにある。




Tetsuya Sato

2012年9月28日金曜日

宇宙戦争(1953)

宇宙戦争
The War Of The Worlds
1953年 アメリカ 85分
監督:バイロン・ハスキン

火星が大接近したある日、カリフォルニアの山中に怪隕石が落下し、そこから出現したウォーマシンが包囲する軍隊をなぎ払い、同様の機械が世界各地に出現するので人類文明が危うくなる。H・G・ウェルズの原作からコンセプトだけをもらってきて、人類対火星人の攻防を主軸に徹底して「SF映画」をした結果、そういう単純な脚本とバイロン・ハスキンの単純な演出がよく噛みあって、なかなかな傑作になっているのである。
ときどき引っ張り出しては見ているけれど、視覚的な豊かさ、音響設計のすごさ、ドキュメンタリー調のてきぱきとした筋運びはまったく古びてこない。人類側の最後の手段として原爆投下機が登場すると、これがノースロップYB-49「フライング・ウィング」の本物で、その勇姿、というか不可思議な姿を見ることができるのもありがたい。




Tetsuya Sato

2012年9月27日木曜日

プレデターズ

プレデターズ
Predators
2010年 アメリカ 107分
監督:ニムロッド・アーントル

目が覚めたらはるか雲の上で地上に向かって落下していて、そこからパラシュートを使ってどうにかジャングルに降り立ったタフな傭兵、狙撃兵、ロシア兵、民兵、凶悪犯など8名がジャングルを抜け、断崖に立って天空の異様を目撃し(地球の空ではない)、怪生物の襲撃を受け、怪生物のあとを追って姿の見えない謎のエイリアンを発見し、ここはどうやら猟場で自分たちは狩られる運命にあると気づき、そこへ現れた謎の男の案内で隠れ家へ逃れ、謎の男はもっぱら隠れ身の術によって生き延びていて、そのためには手段を選ばないことがわかって袂を分かち、エイリアンの宇宙船を奪って地球へ戻るべきであると考え、その方角に向かって進んでいくといよいよエイリアンのほうも本格的に襲ってくるので一人消え、二人消えということになり、いよいよ逃げ場を失うとタフな傭兵が罠をしかけ、エイリアンに肉弾戦を挑んでいく。
エイドリアン・ブロディがタフな傭兵に見えるのに驚いた。キャラクターの構成とキャスティングがよくできていて、プロットもそれなりによく構成されており、演出も一定のテンションをたもつので、シリーズとしては出色の出来になっているのではないかと思う。
ダニー・トレホが早々と退陣するのが少々残念ではあるものの、ローレンス・フィッシュバーンの茶目っけぶりはなかなかに笑えたし、風が吹き渡る草原ではヤクザが日本刀を抜いて一騎打ちというシチュエーションも悪くない。
プレデター側に関して言えば、従来のプレデターはクラシック・プレデターになり、新たにバーサーカー・プレデターほか新種が出現しているものの、やはりどう見てもこの連中はずるをしているようにしか見えないので、あまり好きにはなれそうもない。しかし戦場からさらわれた連中はともかくとして、プレデターが凶悪犯のたぐいをいったいどうやって選んでいるのかは興味深いところであろう。毎日欠かさずにCNNでも見ているのではあるまいか。 





Tetsuya Sato

2012年9月26日水曜日

プレデター2

プレデター2
Predator 2
1990年 アメリカ 108分
監督:スティーブン・ホプキンス

近未来(とはいっても1997年)のロスアンゼルス、ダウンタウンの路上で警官隊とレゲエ調の麻薬密売組織が派手に撃ちあっていると、そこへあれが現われて、密売組織を全滅させ、さらに同様の事件が起こるので、ロスアンゼルス市警のハリガン警部補が謎を追い、するとあれに遭遇し、あれを追う秘密部隊にも遭遇し、たいそうな騒動になっていく。
オープニングはかなり強烈。大都市を舞台にした結果、プレデターの神出鬼没ぶりはかなり奇怪なことになっているが、それでもバランスは一作目よりもよくなっている。主役にダニー・グローバーという一種の三枚目を据えたことも勝因であろう。ただ、マリア・コンチータ・アロンゾはいささかミスキャストであったような気がする。 



プレデター2 [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月25日火曜日

プレデター

プレデター
Predator
1987年 アメリカ 107分
監督:ジョン・マクティアナン

ゲリラを掃討するために特殊部隊が南米のジャングルに送り込まれる。そこでまず先行したチームの惨殺死体に遭遇し、続いてゲリラを掃討したあと、姿の見えない謎の敵の襲撃を受け、一人また一人と殺されていく。
前半のゲリラ掃討までのタッチはアラン・シルヴェストリの音楽とともに非常によい感じになっているが、後半、プレデターが登場すると、これが本格的なジャングル・サバイバル戦になっていて、それをいちおうまじめにやった結果、ひどく地味なことになっている。だから退屈しやすい観客の興味はあの仮面の下にどんな顔が隠されているのか、というその一点に絞られていくことになるわけだけど、それもまたひどく地味な顔であったので、それほど盛り上がらない。生真面目に作られた映画ではあるが、それ以上のものではないと思う。 


プレデター(DTSエディション) [DVD] 
Tetsuya Sato

2012年9月24日月曜日

マインド・シューター

マインド・シューター
Sleep Dealer
2008年 アメリカ/メキシコ 87分
監督:アレックス・リベラ

近未来のメキシコ、企業が水資源を独占してダムを作り、そのせいで崩壊した農村から若者がティファナの町に出ると、メキシコ・アメリカ国境は閉鎖されており、人々は自分のからだにノードと呼ばれるネットワーク用のポートを自費で埋め込んで、兵舎のような場所にすし詰めにされてアメリカ国内のロボットを操作して働いている。
つまり仮想の不法入国者がアメリカで現実の肉体労働に従事しているという話で、だからティファナの町の裏通りではいかがわしい男たちが、にいちゃんノードいらないか、ノード安いよ、と声をかけてくるのである。主人公はネットワークにつながれて手足を動かし、主人公の恋人は記憶を売って糊口をしのぎ、気持ちはすれ違い、思いは猛るものの、胸の内にしまわれている。悲しみとやり場のない怒りが全編にあふれ、最後にはわずかな救いと未来への希望が与えられる。淡々とした作りではあるが雰囲気はよく出ているし、絵はそれなりに美しく、美術にも工夫があり、出演者も頑張っている。





Tetsuya Sato

2012年9月23日日曜日

アウトランダー

アウトランダー
Outlander
2008年 アメリカ/ドイツ 115分
監督:ハワード・マケイン

八世紀のノルウェイに異星人の宇宙船が墜落し、生き残った異星人は地元の ヴァイキング グの捕虜となり、それと同時に異星人の宇宙船に紛れ込んでいた怪物が活動を始めて村人の虐殺を始めるので、捕虜となった異星人はバイキングの王の前で勇気を示して自由を勝ち取り、怪物を倒すために戦って ヴァイキング の一員となる。
落ちてくる異星人がジム・カヴィーゼル、 ヴァイキング の王ロスガーがジョン・ハート、ロスガーと対立する王ガナーがロン・パールマン。ジョン・ハートが ヴァイキング の王というのが意外と言えば意外だが、これがなんだか妙に様になっていた。
監督は『アンダーワールド:ビギンズ』の脚本家ハワード・マケインで、状況を設定して雰囲気を与えるところまではかなり頑張っているが、後半へ進むにつれて首をかしげることが多くなる。素材に対する愛着は見えるが、なにか雑念に邪魔されているような気がするのである。15分余計であろう。登場する怪物は発光体付きのクァールという感じだが、イドではなくて人間のからだをむさぼり食う。精密に再現された ヴァイキング の村のセットは見ごたえがあった。





Tetsuya Sato

2012年9月22日土曜日

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー
Sky Captain and the World of Tomorrow
2004年 アメリカ・イギリス 107分
監督・脚本:ケリー・コンラン

1939年。ニューヨークに突如として怪ロボットの大群が現われて発電機を掘り起こし、時を同じくして世界各地でも同様の怪事があって様々な物が盗難にあう。スカイキャプテンは愛機P-40を駆って怪ロボットの群れに立ち向かい、怪ロボットの群れが怪電波によって操られていることを突き止めるが、そこへ空を舞う怪ロボットの大群が現われ、スカイキャプテンの基地を襲い、スカイキャプテンの相棒デックスをさらうので、スカイキャプテンはかつて関係があった婦人記者ポーリーとともに怪電波の跡を追ってネパールを訪れ、謎の科学者トーテンコフの秘密を探って海へ飛び、英国海軍の空中空母部隊に助けられて謎の島へ潜入する。
1939年製作のフルデジタル映画、というのがあったとしたら、もしかしたらこんな感じなのかもしれない。ストーリーは後景に退き、パルプマガジンのご都合主義が正義となり、やりたいことは単なる冒険絵入り物語なのでそちらに集中した結果、できあがったものがまったく半端ではない。新味はない替わりに、古めかしい物を極限にまで増殖させて、それを縦横無尽に動かしてみせているのである。実際のところ、正味としてそれだけなので、まともな映画を期待してはいけない。つまり、いかにカスタムメイドとはいえ、カーチスP-40がアメリカからネパールまでいきなり飛んでいってしまうような映画なのである。しかもこのP-40は水にも潜るし、水に潜る戦闘機はこれだけではなくて、あとのほうでは英国海軍のマンタ部隊とかいうのが大挙して登場し、みんなで一斉に水に潜る。ヒンデンブルクの「3号機」が登場するし、ロボットはことごとくが怪ロボットだし、怪電波は空中を駆け巡るし、空中空母は空中空母だし、敵の迎撃ロケットはこれ以上にはないような見事な構図で海を割って飛び出してくるし、恐竜は登場するし、崖をまたぐ丸木の橋は どこかで見たような風情だし、 敵の秘密基地は超科学しているし、それがもう小松崎茂が描いた少年マガジンの口絵みたいだし、ジュード・ロウとグウィネス・パルトローの間抜けな掛け合いもそれなりに出来ているし、というわけで、わたしとしては悪いことは何もない。


スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー プレミアム・エディション [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月21日金曜日

マシーン・オブ・ザ・デッド

マシーン・オブ・ザ・デッド
Exterminator City
2005年 アメリカ 79分 ビデオ・オリジナル
監督:クライヴ・コーエン

頭にネクロノミコン、殺人百科その他のデータベースを埋め込まれたロボットが殺人鬼と化して人間の女を殺しまくるので、ロボットの捜査官がロボットの警察医とともに追跡する。
登場してもっぱら台詞をしゃべるのは全部ロボットで、殺される女優たちは風俗系の素人ばかり、ロボットもあからさまに手作りで、いちおう全身はあるけれどほとんど頭部しか写らない。ということでガラクタのようなロボットの頭部が口をぱくぱくしている場面と素人女優が大口を開けてへたくそに悲鳴を上げている場面と殺人ロボットが凶器(なたとか包丁とか)を振り上げる場面(別撮り)と工作用紙で作ったようなビルを背景に飛行機械がピアノ線に吊られてびゅんびゅん飛ぶ場面とがなんとなく交互に映し出され、殺人ロボットがときどき反キリストな悪夢に悩まされるという恐ろしく変わった素人映画である。得体の知れないダークさがかもし出されているのは事実だが、とにかく単調で、最後まで見るには多少の忍耐を必要とする。




マシーン・オブ・ザ・デッド [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月20日木曜日

ブラック・ビートル

ブラック・ビートル
They Crawl
2001年 アメリカ 93分
監督:ジョン・アラーダイス

ロスアンゼルスでバスの暴走事故が起こって運転手が異常な死に方をする。続いて大学生が殺されて住んでいた部屋が爆破される。運転手と大学生の死体からは同じ毒素が発見され、大学生の部屋の爆発跡からは軍用の高性能爆薬が発見される。殺人課の女性刑事と大学生の兄で特殊部隊の隊員が個別に捜査を始めると、殺人カルト教団の存在が浮かび上がり、さらに陸軍の秘密研究を示すデータが見つかり、大学の生物物理学教室では昆虫を電磁波で操作する研究がおこなわれていたことが明らかになるが、そうしたことの多くは合間合間の出来事で、刑事たちはお互いに仕事の邪魔をしているし、上司はまるで理解がないし、特殊部隊の隊員は家族や自分自身に余計な問題を抱えているし、データを運んでいけば済むところをハードコピーを持っていくし、途中でミッキー・ロークがタバコを吸うために顔を出すし、まるで必然性がないのに爆発が起こるし、そのせいで警官が二人も死ぬので記者会見もしなければならないのである。
ゴキブリどもが大挙して出現するのもそれが寄り集まって巨大化するのも本当に最後の方になってから。この手の映画としては画期的なほど脚本が書き込まれているが、おそらく書き込んでいるうち何の映画かわからなくなってしまったのであろう。 


ブラック・ビートル [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月19日水曜日

アイ・アム・レジェンド

アイ・アム・レジェンド
I Am Legend
2007年  アメリカ 100分
監督:フランシス・ローレンス

マシスン『地球最後の男』の三度目の映画化。今回のロバート・ネヴィルは陸軍中佐のウィルス学者で隠れ家に立派な研究施設を作っていて、そこで感染者を相手に人体実験を繰り返している。タイトルが原作と同じになっていたので、どうなるのかと思っていたら、血清が完成して人類は未来に希望をつなぎ、それでロバート・ネヴィルは伝説になるという文脈になっていて、つまり話は1971年の『オメガマン』と同じである。
ウィル・スミス扮するロバート・ネヴィルの硬直した精神状態が一方にあり、他方では感染者側のアルファ・オスがなにやら社会行動らしきことをしていたので、原作に沿った発展になるのかと一瞬期待したが、そういうことにはならなかった。問題は原作と違うとかなんとかいうことではなく、本作におけるロバート・ネヴィルのキャラクターが結局硬直したまま垂れて終わり、ひとつとして解釈を加えられないところにある。というわけでどうしても凡庸さが目立つものの、構成そのものに破綻はなく、演出自体もテンションはおおむね高い。無人となった都市(ニューヨーク)の荒廃した光景も見ごたえがあり、感染者たちの怪物じみた挙動もよくできている。 




Tetsuya Sato

2012年9月18日火曜日

フォーガットン

フォーガットン
The Forgotten
2004年 アメリカ 92分
監督:ジョセフ・ルーベン

ニューヨークに住む編集者テリー・パレッタは息子を失った記憶にさいなまれ、毎日のように息子の部屋で息子の整理箪笥の引き出しを開けて、思い出の品々を引っ張り出してはひたすらに悲しみにふけっていたが、ある日、夫とともに三人で撮った写真から息子が消え、息子の箪笥からはアルバムが消え、息子の姿を記録したはずのビデオからも画像が消え、夫と精神分析医の二人から、実は息子などは存在しない、すべては偽りの記憶であると告げられるので、自分の直感を信じるテリー・パレッタは家から逃げ出し、息子と同じ事故で娘を亡くした男アッシュの家を訪れるが、アッシュには娘が存在したという記憶はなく、テリー・パレッタの行動に異常を見たアッシュは警察に通報し、やってきた警官がテリー・パレッタを外へ連れ出すと、そこへ国家安全保障局のエージェントが出現する。
で、これがなんと、母と息子の絆の強さを調べようとたくらむエイリアンの実験だったのである。で、愛はやっぱり強かったので勝手に自滅してくれるのである。余計な実験などやらずに無心にガンプラでも作っていたほうがよほどに建設的だったのではあるまいか。
記憶がどうこうという最初の設定を思いついたものの、理由を考え出すことができなくてこうなったのか、それとも最初からこういう設定でこういう話に仕立てたのか、どちらにしてもアホウだと思うわけだけど、プロットはふくらみに乏しく、思いつきから先へまったく進まない。ただでさえ暗いジュリアン・ムーアの暗い表情に耐えているだけでは済まないのである。上空にひそんでいるエイリアンは地上の会話に耳を傾けていて、やばいと思うと人間をいきなりかっさらうという習性があり、人体がぴゅーっと空へ舞い上がっていく光景はすごいとなかなんとか言うより、ほとんど『モンティパイソン』なのであった。


フォーガットン [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月17日月曜日

サラマンダー

サラマンダー
Reign of Fire
2002年 イギリス・アイルランド・アメリカ 101分
監督:ロブ・ボウマン

現代のロンドン。地下鉄の拡張工事現場で奇怪な空洞が発見され、そこからドラゴンが現われる。地上に出現したドラゴンはいかなる方法によってか大増殖を果たし、そこら中に火をかけて灰にして、遂に人類の文明を滅ぼしてしまう。それから20年ほどが経過して、イギリスではわずかな生き残りがノーサーバーランドの古い城に立て篭もり、飢えに苦しみながらドラゴンに脅えて暮らしている。そこへなぜかケンタッキー義勇軍が戦車や装甲車、ヘリコプターまで連ねて到着し、俺たちはドラゴンをやっつけると宣言する。恐るべきドラゴンの群れは実は一匹を除いてすべてがメスで、だったらただ一匹のオスを殺せば状況が打開できるのではないかとケンタッキーの人々は考えたのであった。ということで苦労しながらロンドンまで出かけていくのである。
城を抱え込むようにして翼を畳む巨大なドラゴン、スカイダイビングを使ったドラゴン狩り、ヘリコプターとドラゴンの空中戦、少々ゴシック調に荒廃した地上、というビジュアル・デザインの方が全体に先行していて、話の方はあまりうまくついていっていない。核兵器でも殺せなかったという割にはローテク兵器でやっつけているし、俺たちは飢えていると言う割には皆太っていて酒を飲んでいたり、と辻褄の合わないところも多かった。とはいえ城の中では幼い子供たちの楽しみのために『スターウォーズ』が「上演」されていたり(『ジョーズ』という演目もあるらしい)、ところどころでダイアログに妙なずれがあったりして、そのあたりはやっぱりイギリス映画なのであろう。ちょっと惜しい。


サラマンダー [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月16日日曜日

リベリオン

リベリオン
Equilibrium
2002年 アメリカ 107分
監督: カート・ウィマー

21世紀初頭、第三次世界大戦が勃発し、生き残った人類は第四次世界大戦を回避するために一切の感情を捨てる決意をする。怒りや憎しみが戦争を起こしたに決まっているからである。そんなことよりも非武装化した方が話が早いのではないかと考えていると、いきなり抵抗勢力との戦いになって重武装の警官隊が出動する。なにしろ感情を捨ててしまった世界なので情動の起点になるような絵画や音楽も禁止されていて、抵抗勢力が床下に本物のモナリザなどを隠していると摘発されて焼却されてしまうのである。もちろん抵抗勢力の方でも摘発されるのを黙って見ているわけではなくて、こちらはこちらでしっかりと武装していたりするので、これはやはり感情の問題よりも武器の問題であろうなどと思って見ていると、部屋にこもった抵抗勢力を処理するためにクラリックなる特殊技能者が送り込まれる。クラリックは「ガン=カタ」とかいう格闘技を習得していて、これができると相手が撃った弾は当たらない、こちらが撃った弾は必ず当たるというたいそう都合のよい結果を引き出すことができるのである。というわけでクラリックは任務を遂行するのであったが、もちろん現政権の圧政に疑問を抱いて抵抗勢力に心を傾け、最後は悪い独裁者と一騎打ちということになる。
体制に疑問を抱くクラリックがクリスチャン・ベイル、その同僚がショーン・ビーン、抵抗勢力のリーダーがウィリアム・フィクトナー、主人公が心を動かす抵抗勢力の女性がエミリー・ワトソン。
話は電脳空間のない『マトリックス』で、 独裁者が安直にも「ファザー」と名乗り、その政府が怪しい本を発行しているところは『1984年』を意識したような気配があるものの、設定の単細胞は否めないので『デモリションマン』の世界の方が雰囲気的に近いような気がするし、司法官が戦闘能力の面でひどくインチキをしているというあたりでは同じくスタローン主演の『ジャッジ・ドレッド』に似ている。星新一の『白い服の男』のアクション映画版だと言えば、もしかしたらいちばん早いのかもしれない。クラリックは黒い服を着ているが、劇中に登場する体制の車はすべて白で、真っ白に塗られた化学消防車はなにやら異様な感じがして迫力がある。映画としては微妙に詰めの甘さが目立つものの、クリスチャン・ベイルが披露する「ガン=カタ」はなにやら独特の雰囲気があって、とにかくネタとしては面白い。





Tetsuya Sato

2012年9月15日土曜日

スキャナー・ダークリー

スキャナー・ダークリー
A Scanner Darkly
2006年 アメリカ 100分
監督・脚本:リチャード・リンクレイター

麻薬捜査官「フレッド」は同僚や上司の前では「スクランブルスーツ」をまとって正体を隠し、潜入捜査のために麻薬中毒者「ボブ・アークター」になると偽装を解いて正体を現す。「ボブ・アークター」は自宅で麻薬中毒者たちと擬似的な家庭を営んでいるが、麻薬捜査官「フレッド」は上司から「ボブ・アークター」を監視するように指令を受け、監視カメラがとらえた「ボブ・アークター」を観察するうちに「フレッド」と「ボブ・アークター」のあいだに乖離が生まれ、麻薬中毒の度合いも進んで脳が壊され、謎の更正施設に放り込まれる。
出演はキアヌ・リーヴス、ロバート・ダウニーJr.、ウディ・ハレルソン、ウィノナ・ライダー。70年代のディックとはどうも相性が悪いので『暗闇のスキャナー』は未読だが、映画の仕上がりはディックの作品の雰囲気をよく出していると思う。ふつうに撮影された映像をロトスコープで精密なアニメーションに仕上げ、観客の目の前に観客の常識とは異なる次元のリアリティを提示するという手法は、現実への強固な疑念と不信を表現する上で優れて独創的であり、ただ感嘆した。ということで映像作品としての質は非常に高いわけだけど、内容のみについて言うならば、やっぱり相性のほうはよろしくない。 





Tetsuya Sato

2012年9月14日金曜日

サンシャイン2057

サンシャイン2057
Sunshine
2007年  イギリス・アメリカ 108分
監督:ダニー・ボイル

太陽が死にかけている、ということで巨大な核爆弾を投下して活を入れるためにイカロス1号が派遣されるが、これが遭難してしまうので、七年後、続いて送り出されたイカロス2号は順調に太陽への接近を続けるものの、途中、水星軌道を越えたところで遭難したはずのイカロス1号を発見、核爆弾を回収して使えば倍の効果が期待できるのではないか、と考えてイカロス1号に接近するが、間抜けなクルーが軌道変更にあわせて防護シールド(太陽熱を遮るためで、とっても大きい)の向きを変えるのを緊張して忘れていたため、シールドが破損、船長ほか1名が修理のために船外活動へ出て行くが、修理が間もなく終わろうというところでイカロス2号の酸素プラントで火災が発生、船を守るために船長が犠牲になり、鎮火のために酸素を大量に消費したことで残った乗員の生存も困難になり、だったら、ということで「冷たい方程式」な話をしているうちにイカロス1号に接近、ボーディング・ブリッジを出して4名のクルーが乗り込んでみると船内には人間の灰が舞い踊り、黒こげになったクルーが見つかり、いったいこれは、と怪しんでいるうちに船の位置がずれてエアロックが崩壊、ボーディング・ブリッジも壊れ、おまけに宇宙服が一着しかない、ということで一人が犠牲になってエアロックのドアを手動で開き、宇宙服を着込んだ一人と断熱材をからだに巻きつけた二人がイカロス2号を目指して飛び出していくが、ここでまた一人が犠牲になり、それでもまだ犠牲者が足りないということで「冷たい方程式」が蒸し返され、そこでどうにか帳尻があわせると、万事にもったいをつける要領を得ないコンピューターが、まだ一人多い、と言い始め、その一人はどこの誰だ、と探してみると、いったいどこから潜り込んだのか、頭のおかしくなったイカロス1号の船長が船内で破壊活動を始めていて、制御を失ったイカロス2号は使命の完遂が困難になり、最後の手段で核爆弾を手動で起動し、切り離された核爆弾もろともみんなで太陽に向かって落ちていく。
なにかにつけて投票で決めたがるようなままごとじみた連中を送り出すからこういうことになるのであろう。基本設定は『クライシス2050』、 後半の展開はなんとなく『イベント・ホライズン』という感じだが、登場人物は総じて魅力に欠け、演出は独りよがりで面白みがない。 


サンシャイン2057 [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月13日木曜日

ローラーボール(2002)

ローラーボール
Rollerball
2002年 アメリカ 97分
監督:ジョン・マクティアナン

未来。国家は消滅し、世界は企業によって支配されていた、という1975年版のリメイクである。ただしこれはSFではない。四半世紀前に頭に思い浮かべた薄っぺらで単細胞な世界はどこにも存在しないことを、我々はすでに知っているからである。我々の世界でもたしかに国家は消滅しているが、それはもっぱらソ連のことであって、世界というのはロシアから逃げ出した中央アジア諸国のことで、企業はもちろん支配しているけれど、表立ってではなくて、裏から役人にチップを払ってそうしているのである。だからローラーボールは全世界的な戦争代行ゲームではなくなっていて、ロシア・マフィアの頭目がラスベガス進出をにらみながら打っている騒々しい興行に過ぎないのである。そこへ食い詰めたアメリカ人がやってきて、高給につられて選手になって試合に飛び込み、なにやら八百長の存在に気がつくと、これがまた阿呆で純朴なものだから許せない、などと憤って騒ぎを引き起こすのである。最後に正義は貫徹されるが、興奮した民衆は国家の欺瞞に気づいて映画の観客にメッセージを伝えるのではなく、競技場の外へ飛び出してただ車をひっくり返すのである。
オリジナルと比べた場合、世界の複雑さに対してより正直になったという点で評価できる。でももしかしたら、ロシアの暴動か何かをテレビで見かけて、あれかっこいい、あれやってみようという乗りで作った映画なのかもしれないので、あまり前向きには評価できない。全体にリズム感が悪くて、試合のシーンも意味不明なショットが多すぎる。時間をかけていないのであろう。モンゴルからロシアへの夜間の脱出場面はノクトビジョンを通して撮ったかのように画面が緑色に輝いていたが、あれはポストプロダクションで加工したのだろうか。そうだとすれば長いだけで退屈だし、そうでないとすれば、危険な上に長くて退屈である。 




Tetsuya Sato

2012年9月12日水曜日

チームアメリカ ワールドポリス

チームアメリカ ワールドポリス
Team America World Police
2004年 アメリカ 98分
監督:トレイ・パーカー

アメリカの大企業の利益を守るチームアメリカが9.11の100倍(91100)とか、9.11の1000倍(911000)のテロと戦っていると、テロの元締めである北朝鮮の金正日は9.11の2356倍(誰にも計算できない)のテロをたくらみ、チームアメリカに挑戦する。
登場人物はすべてマリオネット、特撮は『サンダーバード』、というよりは東映戦隊物を思わせるちゃちなミニチュア、それがまた確信犯的にちゃちに爆発し、エッフェル塔はひっくり返り、凱旋門は粉砕され、ルーブル美術館は炎に包まれ、ピラミッドには大穴がうがたれ、そしてスフィンクスは首が落ちる。すべてはテロリストと戦うチームアメリカの仕業なのであった。
アメリカというキーワードをおもにチームアメリカと俳優ギルドの二点に集約した結果、市民感覚的な歪んだ多様性が後景に退き、それによって単純化した部分を国際テロとハリウッド・メジャー批判で補ったところ、焦点が絞りきれずに終わったようなところがあり、その点で『サウスパーク(無修正映画版)』に比べると粗削りな部分が見えるが、それでもトレイ・パーカーの悪趣味は健在である。マリオネットの男女は様々な体位で恥ずかしげもなく交接をおこない、悪酔いしたマリオネットの男はしつこくゲロを吐きまくり、歌では『パール・ハーバー』とマイケル・ベイをこき下ろし、アレック・ボールドウィン、ジョージ・クルーニー、ショーン・ペン、サミュエル・L・ジャクスン、リヴ・タイラー、ヘレン・ハント、スーザン・サランドン、マット・デイモン、ティム・ロビンス、マーティン・シーンなどの著名俳優のマリオネットを登場させて皆殺しにした上(マット・デイモンの扱いについてはやりすぎだった、とあとでトレイ・パーカーが反省している)、マイケル・ムーアのマリオネット(そっくり!)に自爆テロをやらせている。
マリオネットの演技(頭部のメカニズムがすごいのである)、アクションは見ごたえがあり、挿入歌も悪くない。"America, Fuck Yeah!"はなかなかけっこうな仕上がりだし、金正日のソロナンバー"I'm so ronely"も聞けたし(エンディングクレジットでは二番も流れて、その歌詞では金正日の恐るべき正体があきらかにされる)、主人公ゲイリーの特訓シーンに流れる"Montage"は笑えた。金正日のネコたちもかわいいし、目に見える難点がいくらかあるとしても、この恐ろしく手間のかかった愚劣さは、おそらく無類と言うべきであろう。





Tetsuya Sato

2012年9月11日火曜日

サウスパーク 無修正映画版

サウスパーク 無修正映画版
South Park: Bigger, Longer and Uncut
1999年 アメリカ 81分
監督:トレイ・パーカー

『サウスパーク』の劇場映画版。スタン、カイル、カートマンそしてケニーの四人組みがあのお下品な『テレンス&フィリップス』の劇場版を見物にいって(R指定なので浮浪者に切符を買わせる)、汚い言葉をうんとこさ覚えて帰ってきたのでそれが学校で問題になり、カイルのお母さんをはじめとするおっかないPTA団体MAC(MOTHERS AGAINST CANADA)が国家を動員してテレンス&フィリップスの本国カナダに宣戦を布告する。子供たちが汚い言葉を覚えてしまうのは、親の教育が悪いからではなくて、カナダが悪いからなのである。カナダは報復にハリウッドのボールドウィン一家とアークェット一家に爆撃を加え、一方、猪に蹴られた死んだサダム・フセインは地獄でサタンをたぶらかして地上を支配する機会を狙い、アメリカでは徴兵制が復活して黒人から前線に送り込まれ(クロちゃんの陰に隠れろ作戦)、PTAに捕えられたテレンス&フィリップスには死刑の瞬間が刻々と迫り、スタン、カイル、カートマンはテレンス&フィリップを救うためにUSOショーの会場へ潜入する。
傑作だという以外に言うことはあまりない。とにかくもりだくさんに『サウスパーク』な『サウスパーク』なのである。そしてアカデミー歌曲賞にノミネートされた"BLAME CANADA"をはじめ、いずれもパワフルなミュージカル・ナンバーがすばらしい。





Tetsuya Sato

2012年9月10日月曜日

サボテン・ブラザース

サボテン・ブラザース
!Three Amigos!
1986年 アメリカ 110分
監督:ジョン・ランディス

1916年のメキシコ。山賊に襲われている村から助けを求めて一人の娘が町にやってくる。ところが映画と現実の見分けがつかなかったため、たまたまスクリーンに映し出された三人組のヒーローを本物の正義の味方と思い込み、予算の関係で話をかなり省略した電報をハリウッドに送る。当のヒーロー三人組はプロデューサーの仕打ちにあって首を切られ、帰る家もない有様であったため、そこへ届けられた電報をショービジネスの仕事と思い込んですぐさまメキシコへ出かけていく。そうすると絵に描いたようなメキシコの山賊が登場し、しかもその山賊にはなぜかドイツ人の「軍事顧問」がくっついているのである。
スティーブ・マーチンがランディ・ニューマンとプロダクションを組み、おそらくは最盛期のジョン・ランディスが歌と踊りとあほな笑いの気の抜けた映画に仕上げている。きわめてよくできたバラエティショーであり、にへらにへらと薄笑いを浮かべながらなにかを見たいような場合には非常につごうがよい。しかも舞台背景の『ワイルド・バンチ』な情景が心楽しいし(まったくの西部劇なのに自動車が走って飛行機が飛ぶ、というか、飛行機まで出てくると『パンチョ・ビラ』かもしれないが)、砦に巣食っている山賊の頭目は得体の知れない趣味の芸術写真にはまっているし、四十歳の誕生日を迎えて心に憂いを感じている。そして心優しい子分たちはお金を出しあって頭目にセーターを贈ったりするのである。ちなみにこの多感で残忍な山賊の頭目を演じたアルフォンソ・アラウは『ワイルド・バンチ』ではマパッチ将軍の子分の役をやっていて、ゴーグル姿で騎兵隊をしきっている姿がさまになっていた。


Tetsuya Sato

2012年9月9日日曜日

バーク アンド ヘア

バーク アンド ヘア
Burke and Hare
2010年 イギリス 91分
監督:ジョン・ランディス

1828年、エジンバラは医学の中心地を名乗り、各国から医学生を招きよせてうるおっていたが、医学研究に使える死体は刑死者に限られていて、その数少ない死体をエジンバラ医学界における二大勢力の一方、モンロー博士が条例によって独占すると、残る一方のノックス博士は新鮮な死体を手に入れることができなくなり、エジンバラの貧民ウィリアム・ヘアとウィリアム・バークはノックス博士が死体を高値で引き取ることを耳にして部屋代を払わずに死亡した下宿人をノックス博士のところへ持ち込んで5ポンドで売り、再び下宿人が死亡するとまたノックス博士のところへ持ち込んで金に換え、これは商売になるということで新鮮な死体を得るために死体を製造するようになり、エジンバラの暗黒街は急に金回りのよくなったバークとヘアに目をつけてみかじめを要求し、金を手にしたバークは女優ジニー・ホーキンスに恋心を抱いてジニー・ホーキンスのパトロンとなって女ばかりの『マクベス』に出資し、ヘアは妻ラッキーとともにビジネスの新たな展開を模索し、そうしていると警察のマクリントック大尉が行方不明者とエジンバラ医学界の関係に気づいてノックス博士の身辺を調べ、バークとヘアの犯罪をあばく。
1985年の『贖われた7ポンドの死体』とほぼ同じ素材を扱っているが、こちらはほどよくコメディで、 微妙に純真なバークがサイモン・ペッグ、それなりに冷血なヘアがアンディ・サーキス、トム・ウィルキンソンとティム・カリーがいかにもな「19世紀の医者」を怪演し、クリストファー・リーがワーテルローの古兵の役で顔を出す。
もののわかっている監督がしっかりと演出し、そういう空間で出演者が楽しそうに仕事をしているのは見ていて実に心地よい。時代色は豊かだし、キャラクターも豊かだし、劇中劇の女ばかりの『マクベス』はけったいだし、バグパイプはスイングを始めるし、ということで、これは傑作なのではあるまいか。見終わったあと、にんまりとしていたようなのである。


Tetsuya Sato

2012年9月8日土曜日

ドリームキャッチャー

ドリームキャッチャー
Dreamcatcher
2003年 アメリカ 136分
監督;ローレンス・カスダン

幼馴染の男たち4人が冬の山小屋に集まって、ビールを飲んで馬鹿話をして楽しんで、翌日は2人がトラックで買い出しに、残る2人は鹿狩りに出る。そして鹿狩りに出たうちの1人が降りしきる雪の中で腹具合の悪い中年男と遭遇し、救いの手を差し伸べて山小屋へ招き、買い出しに出た二人組はその帰り道で路上にうずくまる人影を避けようとして運転を誤る。山小屋に残った2人組みは助けた男がしきりともらす「げっぷ」や「おなら」に閉口し、森の動物たちがぞろぞろと逃げ出していく光景を窓の外に見て驚愕する。しかも上空には武装ヘリコプターが出現し、一帯は制限区域に指定されて移動は不可能になったとスピーカーで告げていく。一方、ひっくり返った車から這い出た買い物組の2人は路上にうずくまる女性に声をかけ、脚を痛めた1人は女性とともに後に残り、1人は助けを求めて山小屋へ走る。同じ頃、森の外では軍隊が展開していて周辺住民を一箇所に収容し、一見して狂信的な指揮官は年齢を感じて指揮権を副官に譲ろうとしていた。指揮権の象徴とはかつてジョン・ウェインから贈られたという派手な自動拳銃であり、指揮権の内容とはエイリアン対策特殊部隊「ブルー隊」の全権であった。さらに同じ頃、その山小屋では中年男の体内から肛門を食い破って長めの芋虫のごとき怪物が出現を果たし、男たちの1人を食い殺してもう1人の身体を乗っ取り、救いを求めて小屋へと小屋へと近づきあった買い物組の1人は身体を乗っ取られた男の心を読んで事態を素早く察知する。テレパスだったのである。20年前、この仲良しの四人組は知的障害のある少年を危機から救って友達になり、親しくつきあっているうちに特殊な能力を授けられていたのであった。エイリアンに身体を乗っ取られた男はスノーモビルにまたがって奥深いメインの森から脱出を図り、アパッチ・ヘリコプターの編隊は不時着したエイリアンの宇宙船へと接近し、「無害です殺さないでください」とテレパシーで懇願するエイリアンの群れをミニガンで掃討する。すでに引退を宣言した指揮官の説明によれば、エイリアンの懇願は嘘八百で、不時着したついでに地球征服を企んでいるのである。指揮官はかれこれ25年間もエイリアンと戦ってきたので間違えようがないのである。しかもその指揮官というのがモーガン・フリーマンなので説得力があるのである。疑いを入れる間もなくエイリアンの宇宙船は派手に自爆してアパッチの編隊の大半を飲み込み、森から脱出したエイリアンは乗り物を替えてマサチューセッツへと進んでいく。ところがエイリアンには誤算があった。乗っ取った相手は半年ほど前に交通事故にあって二度の心停止を経験しており、臨死体験を通じて何かが(何がだ?)が変わっていたために、意識のすべてを乗っ取られてはいなかった。心は友達と通じ合っていた。事実を察したテレパス男はブルー隊の良心的な副官を説得し、悪いエイリアンの野望を阻むべく追跡を開始する。だがそのためには助けが必要だ。20年前のあの知的障害の少年は、あの時からすでにこれを予期していた。少年はとうに成人して白血病で死にかかっていたが母親に見送られて追跡行に加わった。間もなく真相は明らかになる。すべては宿命の中に組み込まれていたのであった。少年はよいエイリアンなのであった。そして悪いエイリアンはボストンの水源に寄生虫を流して人類を滅ぼそうと企んでいたのであった、という、寝ぼけているのではないかと疑いたくなるほど盛りだくさんの内容をローレンス・カスダンは破綻もさせずに手堅くまとめている。血まみれのモンスター描写、これでもかのエイリアン描写も含めて全体によい仕事ぶりではないだろうか。原作は読んでいないけれど、おそらく見たまんまであろうと確信している。 



Tetsuya Sato

2012年9月7日金曜日

スポンティニアス・コンバッション

スポンティニアス・コンバッション
Spontaneous Combustion
1989年 アメリカ 97分
監督:トビー・フーパー

人体自然発火の話である。50年代の水爆実験で放射能への免疫実験がおこなわれる。その実験というのは爆心近くの地下シェルターに怪しいワクチンを投与した若い夫婦を座らせておくという無謀なもので、夫婦は生き延び実験は成功したものと思われたが、9ヶ月後、被験者はいきなり自然発火を起こして焼死し、直前に生まれた夫婦の子供は自らの出生の秘密を明かされないまま成長することになる。最初に大きく出る割には後になってしまりのなくなる脚本だが、テンポがいいので見てしまう。怪優ブラッド・ドゥーリフが自然発火体質の男を大熱演し、悲劇的な宿命に突き動かされてそこら中に火を放つのである。それもただ燃えるという感じではなく、人体から炎が柱になって吹き出すという感じで、これはなかなかに見応えがある。特別出演のジョン・ランディスもたいそう元気に火を吹きだして焼け死んでいた。 



スポンティニアス コンバッション~人体自然発火~ [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月6日木曜日

キャプテン・ザ・ヒーロー

キャプテン・ザ・ヒーロー 悪人は許さない
The Return of Captain Invincible
1983年 オーストラリア 90分
監督:フィリップ・モラ

第二次大戦中に真紅のマントを翻してナチと戦ったキャプテン・インビンシブルが、50年代に入ってから赤狩りにつかまり、査問委員会でいじめられた結果、アル中になって落ちぶれる。で、現代、クリストファー・リー扮するミスター・ミッドナイトが東海岸壊滅の大陰謀を企んだりするので、その陰謀を阻止するにはあいつしかいないということになり、また担ぎ出される。
オーストラリア映画で、監督は『ハウリング2』のフィリップ・モラ、キャプテン・インビンシブルがアラン・アーキン。 冒頭にモノクロのニュースフィルムの形式で再現された査問委員会のシーンは傑作である(なぜ赤いマントを着ているのか? 大尉の階級はどこでもらった?)。あとはアル中から更生しようとしているキャプテンの前に現われて、積み上げられた無数のグラスを背に、クリストファー・リーが「飲め!」と歌う場面くらいであろうか(ミュージカルなのである)。作りが野暮ったいし、歌も踊りも野暮ったい。陰謀にかかわる描写は目を見張るような低予算ぶりで(確信犯だとしてもあれはなかろう)、話半分くらいの気持ちで見るとちょうどいい映画である。


Tetsuya Sato

2012年9月5日水曜日

スペース・サタン

スペース・サタン
Saturn 3
1980年 アメリカ 89分
監督:スタンリー・ドーネン

なんだかよくわからないけれど未来の地球は深刻な食糧難で、犬まで食べているらしいのである。この地球的な問題を克服するためになぜか土星の衛星でたった二人ばかりが研究していて、それがカーク・ダグラスのアダム少佐とファラ・フォーセットのアレックスなのである。研究と言っても水耕栽培くらいのものでたいしたことをやっているようには見えないし、この宇宙隠居と宇宙ギャルはいちゃいちゃと遊んでばかりで働いている気配がまるでない。で、案の定というべきなのであろう、研究が遅れているということで三人目が送り込まれてくるのだけど、その三人目は出発の直前に殺害されていて、勝手に入れ替わってやってくるのが頭のおかしい ハーヴェイ ・カイテルの大尉なのである。この大尉殿は到着するやいなや、ファラ・フォーセットにあけすけに迫り、もちろんすげなく断られてしまうので面白くない。というわけで連れてきたヘクターとかいうロボットを電波経由で頭につないで、赤ん坊の脳みそで作ったとかいう無垢な電子頭脳にいろいろと吹き込むわけである。察するに妄想に耽ったのであろう、するとヘクターもファラ・フォーセットに懸想して、よくよくこの未来は色ボケであるなあ、などと感心したりしているうちに ハーヴェイ ・カイテルが基地の指揮権を脈絡もなく乗っ取りにかかるので、カーク・ダグラスは恥ずかしげもなく全裸の姿で反撃したりする。そこへヘクターも参戦してきて ハーヴェイ ・カイテルをどこかへ連れ去り、残されたカーク・ダグラスとファラ・フォーセットはヘクターを倒そうと高圧電流や落とし穴を仕掛けるものの、たぶんやる気がなかったからだと思うけれど、失敗に終わって逃げ場を失い、最後にカーク・ダグラスが捨て身の爆弾攻撃でやっつけて、結局ヘクターは何がしたかったのか、もしかしたら色ボケの人間にあきれてなんとか仕事をさせようとしたのかもしれないが、よくわからないまま終わってしまうという、つまりどちらかというとかなり駄目な種類の映画なのである。 
007シリーズ のプロダクション・デザインなどで名高いジョン・バリーの原案ということだけど、当の本人が途中で亡くなってしまった結果、SF映画のことなど夢にも見たことのないスタンリー・ドーネンにいきなりお鉢が回ったのではないかと想像している。残念ながら美術的にも感心すべき点はあまりない。ミニチュアも特殊効果もわびしい水準で、ハーヴェイ・カイテルの怪演ぶりはそれなりにおもしろいものの、『スターウォーズ』の後に製作されたハリウッド・メジャー作品とはとても見えないのである。


スペース・サタン [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月4日火曜日

ドクター・モローの島

ドクター・モローの島
The Island of Dr. Moreau
1977年 アメリカ 104分
監督:ドン・テイラー

H・G・ウエルズの『モロー博士の島』のほぼ忠実な映画化。ただし動物改造が外科出術からDNA操作に変更されていて、原作ではいちばん肝心な最後の三分の一がカットされている。つまり文明批判的な部分はなくなっていて、ホラー部分だけが残されている。AIP末期の作品で、この会社としては信じられないようなオールスター・キャスト(バート・ランカスター、マイケル・ヨーク、バーバラ・カレラ)でもある。社運をかけていたのかもしれない。
ドン・テイラーの演出は凡庸だが、不気味な島の雰囲気を出すことには成功している。バート・ランカスターのモロー博士は非常に貫禄があり、こういう相手に「掟はなんだ」と指を突きつけられてしまうと哀れな改造動物ならずとも「四つ足では走らないこと」と答えたくなる。とにかく雰囲気だけはよく出ているので、けっこう気に入っている。 



ドクター・モローの島 [DVD]
Tetsuya Sato

2012年9月3日月曜日

巨大蟻の帝国

巨大蟻の帝国
Empire of the Ants
1977年 アメリカ 89分
監督:バート・I・ゴードン

不動産会社の土地見学ツアーに参加した男女十人ほどがフロリダの海岸にある世にもいかがわしい開発予定地を訪れて、それぞれの事情をあれやこれやと勝手に口にしていると、そこへ放射能の影響で巨大化したアリが現われて襲いかかるので、生き残った人々はジャングルを抜け、沼沢地を抜け、どうにか近くの町にたどり着くが、その町はすでに巨大アリの支配下に置かれて住民は女王アリのフェロモンをかがされてすっかりアリの奴隷になっている。
いちおう文明批評的な側面があって、救いのない結末も含めてそのあたりはいちおう評価すべきかもしれないが、バート・I・ゴードン自身による脚本はダイアログも含めていろいろと寝ぼけているような気がするし、バート・I・ゴードン自身による特殊効果で作った巨大アリというのがおがくずを敷いたガラスケースの中のアリを接写で大きくして、それを固定マットでスクリーンの一角にはめ込む、というおそろしくシンプルなしろもので、そういうアリが建物にからむシーンではその建物が歴然と写真だったりすると(つまりビルの写真にバッタをたからせただけの1957年の『世界終末の序曲』から何も変わっていない)、工夫のなさには多少あきれることになるのである。 



MGM HollyWood Classics 巨大蟻の帝国 [DVD]

Tetsuya Sato

2012年9月2日日曜日

世界が燃えつきる日

世界が燃えつきる日
Damnation Alley
1977年 アメリカ 91分
監督:ジャック・スマイト

ロジャー・ゼラズニーの『地獄のハイウェイ』の映画化と聞いて、いったい期待しないことがあるだろうか。だからわたしは公開初日にテアトル東京へ出かけたのである。ところがまず冒頭で話が違う。男ばかりの生存者が核ミサイルのサイロで生活していて、ある日その基地が世にもつまらない事故(ガスの元栓を締めていなかったところへタバコの火の不始末が!)で全滅し(!)、わずかな数の生き残りが三角形のタイヤをつけた実用性もへったくれもない上に世にも面白くもないデザインのランドマスターとかいう世にもくだらない乗り物に乗って旅に出るのである。そしてそこから先は観客にとって文字どおり『地獄のハイウェイ』となるであろう。大味で面白みも迫力もないエピソードがただもうだらだらと並べられているだけだからである。



世界が燃えつきる日 [VHS]

Tetsuya Sato

2012年9月1日土曜日

スペース・ウルフ キャプテン・ハミルトン

スペース・ウルフ キャプテン・ハミルトン
Anno zero - guerra nello spazio
1977年 イタリア 90分
監督:アル・ブラッドレイ

キャプテン・ハミルトンが指揮する宇宙船MK31では乗員の一人が規則によって二人でおこなうことになっている船外活動を一人で始めて、キャプテン・ハミルトンが危険だ戻れと叫ぶのを無視した乗員は大丈夫ですよおなどと言いながら、なぜか船外からしかアクセスできないバッテリーの修理に取りかかり、キャプテン・ハミルトンがやめろと叫ぶのをなおも無視して作業を進めるとバッテリーから塩酸が噴出して宇宙服を溶かすので、操縦室では別の乗員がやつの命はあと三分だ、などと言っているとキャプテン・ハミルトンが外へ出て悲鳴を上げる乗員を救い、もたもたと船に戻るところで時間が刻々と経過して、これはもう、いやおうもなくサスペンスが盛り上がっているところなのであろうと思って見ていると、それはそれとして宇宙船MK31は謎の怪電波に遭遇し、さらになにやら宇宙船らしきものと遭遇して攻撃を受け、どうやらエンジンにダメージを食らってどこかの惑星に引き寄せられて、このままでは衝突だ、などと言っているうちに乗員の一人がなにやらスイッチのようなものを押すと船はたちまちのうちに安定を取り戻すので、宇宙船MK31は謎の惑星に着陸してキャプテン・ハミルトン以下、乗員たちがあきらかにさほどの目的もなく調査に取りかかると一人が悲鳴を残して姿を消し、キャプテン・ハミルトン以下、残りの乗員が探しにいくと原住民が数人現われてテレパシーで話しかけ、どうやらその惑星にはかつては偉大な文明があり、人間は機械のおかげで安楽に暮らしていたが、そのうちに機械に支配されるようになって、いまではすっかり退化したと告白し、キャプテン・ハミルトンがその機械と戦うために武器を持って進んでいくと、工作用紙一枚と色つきセロファン数枚、豆電球三個くらいを使って作った機械の頭目が姿を現わし、自分は宇宙最強であると豪語した上でキャプテン・ハミルトンに自分を修理するように命令し、そもそも怪電波を飛ばし、宇宙船MK31に損傷を与えたのもキャプテン・ハミルトンをこの惑星に引き寄せて自分の修理をさせるためであったと説明を加え、キャプテン・ハミルトンが命じられるままに基盤を一つ交換すると、わははははなどと笑い出し、そこでキャプテン・ハミルトンが軽く攻撃を加えると機械はあっという間に爆発を起こし、惑星もまたまもなく爆発する、ということで、キャプテン・ハミルトン以下の一行はさほどの緊張感もなく脱出を果たすが、それでも話はまだ終わらないのである。 
プロットは崩壊している上に台詞の半分は意味不明、カットのかなりの数も意味不明、というかなり恐ろしいしろもので、特殊効果も特殊効果と言えるようなものではなくて、小学生の夏休みの工作のレベルにも達していない。なぜか『スターウォーズ』とほぼ同時期の作品ということになっているけれど、見た目は1960年の『SOS 地球を救え』あたりよりも古めかしい。 
スペース・ウルフ キャプテン・ハミルトン [DVD]

Tetsuya Sato