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町にシロエという名の娘がいた。父親は著名な法律家で、ネロエを糾弾する論文を発表しようとしたところを同僚に密告されて逮捕され、強制収容所へ送られていた。ヒュンは町の広場でシロエを見かけて恋に落ちた。ヒュンが話しかけるとシロエの顔が赤くなった。ヒュンがシロエの髪に触れると、シロエは真っ赤になった顔をうつむけた。シロエは恐るおそるに手を伸ばして、それからヒュンの手をしっかりと握ると秘密の集会に連れていった。そこには紫色のドラゴンがいて、口から炎と煙を吐き出しながら深みのある声で話していた。邪悪な黒い力とは現体制が大衆を操るために作り出した虚構であり、仮に邪悪な黒い力に実体があるのだとすれば、それは無実の一般市民を無差別に逮捕して強制労働に送り込み、犯罪組織と結託して市場の自由を妨げ、思想の自由と信仰の自由を抑圧する現体制にほかならない。ドラゴンの話を聞いて学生たちが力強くうなずいた。現体制は破棄されなければならない、とドラゴンが言った。学生たちが拍手した。学生たちはヒュンの意見を聞きたがった。ヒュンは机の上に飛び上がり、腰の名もない剣を抜いた。
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
学生たちが拍手した。その様子を部屋の隅から、スキンヘッドの男が見つめていた。サングラスのレンズにヒュンの姿が映っていた。
予言が成就しつつある、とミュンが言った。
Copyright ©2015 Tetsuya Sato All rights reserved.
「俺は運命を受け入れている。俺は世界を救う英雄になる。だから俺は邪悪な黒い力と戦うんだ」
学生たちが拍手した。その様子を部屋の隅から、スキンヘッドの男が見つめていた。サングラスのレンズにヒュンの姿が映っていた。
予言が成就しつつある、とミュンが言った。
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